▼試合終了後
試合終了と同時にスタジアムを退場し、控室へと戻った月山国光。試合に負けはしたが、全力を尽くしたそれに絶望するものは居なかった。寧ろ、晴れやかな顔でさえあった。
「南沢、勝てなくてすまなかった」
「はっ、謝るような事かよ」
汗で濡れたユニフォームを脱いでTシャツに着替えた南沢に、兵頭はグローブを取って足元に跪いた。ベンチに座った南沢は、足を組んで兵頭の額を小突いた。兵頭はその手を取り、手の甲に口付ける。
「オレは、お前を見初めた瞬間からお前の望むものは全て叶えてみせると我が心に誓ったのだ」
「え…う、うん?」
「それを!まさかこんな形で打ち砕かれるとはっ…不覚…!だがな南沢!オレはこれから先絶対に誰にも負けぬ!お前に勝利を捧げ続ける事を誓おうぞ」
「はぁ…ありが、とう?」
無駄に男前な表情で誓いを立てる兵頭は南沢の手を握ったまま離さない。南沢は困ったように眉を下げながらも満更ではないのかふわりと微笑んだ。それを遠巻きに見ていた一文字だったが、南沢の笑顔を見て頬を染めた。月島は肩を竦めて南沢に近寄ると、前髪を掬い上げて口付けた。
「だが南沢、君は雷門に帰るのであろう?」
「えっ!そ、そうなのか南沢!?」
「誠か!?」
月島の言葉に南沢より早く反応する一文字と兵頭に、本人は眉を下げた。一心に自分を見つめてくる二人の視線に居た堪れず目を逸らす。すると月島が顎を掴んで自分の方を向かせた。
「南沢、君が帰りたいと言うのなら我らは止めはしない…だが、少しでも迷いがあるのなら月山国光に留まっては如何か」
「月、島…」
「ちょおっと待ったァ!何かごちゃごちゃ言ってたみたいだけど、そろそろウチの南沢さんを返して貰おうじゃねーの。ああ?」
「南沢さん、先程は待ってますなんて言いましたけどやっぱり早く戻って来て下さい!一緒にサッカーしましょう!」
「二人共落ち着け!一応他校の部室だぞ!」
南沢が瞳を揺らがせていると、月山国光の控室を無遠慮に開いて入ってくる雷門の部員達。一同が驚愕していると、倉間が南沢に近寄り手を引いた。
「南沢さん、アンタが帰ってくんの待ってられる程辛抱強くないんスよ。オレら」
「月山国光に南沢さんが必要だとしても…オレ達にはもっと南沢さんが必要なんです!」
「お前が居ないサッカーなんて、物足りないんだ」
南沢は三人の言葉に目を見開いた。南沢の手を握る倉間の手の温もりは、一度手放したもの。南沢が二年間で築き上げた絆そのもの。
「貴様ら!一度南沢を追い出しておいてよくも抜けぬけと!」
「はぁ?誰が追い出したってんだよ?あぁ!?」
「こんな下賎な輩が居る雷門などに居るより、月山国光に居た方が南沢の為だと思わぬのか?」
「フン、そんな古風で堅物の月山国光の校風は南沢さんにはお似合いではない!」
「何だか…すまない…」
「いや、我らこそ…」
言い争う兵頭と倉間、月島と神童。そして頭を下げ合う三国と一文字。間に挟まれた南沢は、自分がこんなに必要にされているのだと思うと嬉しくなって笑みを洩らしていた。
「あっ、何笑ってんスか南沢さん!」
「相変わらず愛い笑顔だ…」
「南沢さんマジ天使…」
「笑っている場合ではないだろうに」
「まったく、仕方のないヤツだ」
「人の気も知らず、呑気なヤツよ」
呆れる六人の輪から南沢は抜け出すと、腕を後ろに組んで悪戯に微笑んだ。
「そんなにお姫様扱いされたら、どっちに帰るか迷っちゃうな」
愛されたがりの小悪魔は、罪作りだ。
***
24話号泣しながら見た彼方です。
南沢さんマジ格好良かった。
南沢さんは不滅!早めに雷門に戻って来てね!><