その名は、青い春
視界の端で金が踊る。風に弄ばれる向日葵色をひと房取って、指に巻きつける。あの子とは違った髪質で、さらさらと零れ落ちる襟足。どうしても諦めきれずに、短くしたトップはワックスとスプレーで毎朝頑張っている。………母にはお揃いねー、と朗らかに笑われた。絶対気付いてる。俺が綱吉大好きって。
恥ずかしさで悶えていると、遠くから駆ける足音。
深呼吸して、振り返り。
「沢田くん!ごめんね、…待った?」
「ああ、いや。大丈夫」
息を弾ませた、他クラスの女子B。うん、ショートボブがよく似合っている。
女の子。呼び出された俺(男子)。
緑豊かで、静かな中庭。
「えっと、………。っ好きです!!」
はい、告白ですよね。
「―――、ごめん」
「っ………、うん。なんとなく知って た」
「好きになってくれて、伝えてくれて、ありがとう」
「!………そんな…、優しいから―――勘違い、するんだよ。バカっ」
「………ごめん」
怒りながら、それでも光るナニカを見ると申し訳なくなる。
ただ謝ることしか出来ない。
彼女はそんな俺に、最後は呆れて笑ってくれた。
「いつか、フッたこと後悔させてやるんだから!」
捨てゼリフとともに。
走り去る彼女の涙が完全に乾いてないことを知っている。
引き攣れた呼吸は、走っただけではないことも知っている。
それでも俺は、その背を眺めるだけ。
「「………見ーたーぞー」」
「―――、ユキ。サキ」
完全に消えた背を、未だぼんやりと見つめる俺に掛かる二つの声。
………見たぞ、ってか。
「…最 初 か ら 、居たよな?」
「な、なんのことでしょう沢田さん」
「そ、そうですわ沢田さん」
挙動不審な二人。マフィア舐めんな。お前ら緊張で息遣い荒すぎてバレバレ。
わたわたと身振り手振りで弁解する赤茶髪のチャラそうなノッポ、ユキこと"結木"。目を泳がせまくって冷や汗を掻く黒髪に紫メッシュの眼鏡、サキこと"佐々城"。こいつらが俺の高校生活の友人である。
「はぁ…、で?」
溜息しか出ない。が、先を促してやる。
「なんでお前フッたの!!?」
「あの子、学年でトップ5に入る美少女だったのに!!」
「編入してから告白されること13回!」
「靴箱からラブレターが週三で落ちる!!」
「「クソッ!!!沢田だけ羨ましいいぃいぃぃぃぃいいい!!!!」」
目を見開いて早口で捲し立てた。かと思うと、絶叫。
「だから?」
「「その余裕がムカつくぅぅぅううううう!!今回の理由は??!」」
「その気がない。家族第一」
「「やっぱりか!でも、そんなトコもカッコイイぃぃいいいい!!」」
息ピッタリだな。コントか。
―――まあ、彼らの叫びも一理ある。
初代譲りの綺麗な顔。イタリアで身に付いたフェミニスト。『元』女だから解る女子の気持ち。
そんな男が身近に居たら。………生前の『わたし』なら一発で惚れる。
「うぐぁぁあ!ムカつくぅぅぅぅうううう!!」
「イケメン爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ」
………いい加減鬱陶しくなってきたな。
え?こんな奴らと友人になった理由?
「で、今日の行き先は?」
「「ナミモリーヌ!沢田の奢りで!!」」
あの子との共通点があったから。
甘いものが、好き。
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