domani | ナノ



  La calma prima della tempesta.


「………ただいまー」
「もうっ!オレの部屋なんだからこの物騒な物片付けろよ!!」

―――ああ、またやってる。
上階から聞こえる遣り取りは何度目か。
俺が日本に帰ってから、リボーンがツナの家庭教師になってから数日。いろいろ小耳に挟んだり、噂になったり、あるみたいだけど。
全部先々のツナのためだから(…たぶん)、お兄ちゃんは見守ります。

………。けど、ちょっと心配なので様子見。

階段を上ってすぐの部屋。
"TUNA"のネームが掛けられた扉を片手で叩きながら、覗き込む。

「つーな?」
「っ!にい、ちゃん…おかえり」
「…ちゃおちゃお」

肩を跳ねさせたクルミ色に対し、漆黒はスルリと。始めから俺が上ってくるのも解っていたみたいで。さすが、一流。

「声響いてたけど、どした?」
「…なんでも、ない」

不貞腐れたような、困ったような。へにゃりとした眉は、理由を正直に述べるべきか言い倦ねている。そりゃ、リボーンの獲物が広がる部屋を説明すれば、必然的に何故、そうなったか―――綱吉がボンゴレというマフィアに関わっている事も話さなければならなくなるわけで。
まだ、自分の中で整理出来ていないことを他人に、家族に話すのは躊躇われるのだろう。その人が一般人であると思っているからこそ。

「………そう。―――無理はしないように、ね?」
「う…ん、」

人を思いやって、混乱して。揺れる琥珀に、苦笑する。居た堪れなくなったのだろう、俯いてしまった柔らかな髪を梳く。
ちらりと横に視線を向ければ、何かを企んでいる顔。


「ツナ、キッチンにおやつが用意されてたよ?たぶんシュークリーム…」
「えっ!ホントに!?」

部屋へと向かう際に見えた情報を伝える。
途端に顔を上げて、喜色の声。

「うん。俺のもあげるから食べておいで」

それが可愛いから、ついつい甘やかしてしまう。
兄ちゃんの分が、と遠慮する可愛い弟に笑いかけて。もうひと押し。

「好きなんでしょ?俺はちょっと買い食いしたから…」

隅で呆れた家庭教師様が見えたが無視だ。今は綱吉。

「たぶん残しちゃうし。それなら…好きなツナが食べてくれると嬉しい」
「〜〜〜〜、わかった。ありがとう、ナマエ兄ちゃん」

悩んで悩んで悩んで。最後に折れたのか、照れくさそうに笑ったツナは。周りに花が舞っていて。―――この子の兄で良かった!


食べてくる!と元気よく階下へ降りたツナを見送って。
あの子が話の聞こえない範囲へと出た瞬間、空気が変わる。

「…ケツァール」
「今は、ナマエ、だよ」
「、―――ナマエ」
「何を寄越した?」

甘さの欠片もない、声。
先程の掛け合いは何だったのか。まあ、今から話す内容は平穏な非日常ではないのだろう。俺たちの―――マフィアの日常。

「………スモーキン・ボム、だぞ」
「!…そう。ファミリーに?」
「そうだぞ。他にも何人かは見繕っているが…」

………筋書き通りだ。
『赤が吹き荒れ、蒼を呼び、翠に翻弄される。黄が照らし、紫を掴む。藍に惑わされ、橙を統べる。』
いつかの、メモ。その順で、あの子の周りに、たくさんの人が。集う。
それを守るために、祈るように戦う優しいあの子が。傷付かなくて良いように。

耳元を、羽ばたきの音が過ぎ去る。

先ずは、赤―――嵐、か。

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