domani | ナノ



  Vita scolastica.


あれから―――。
家に入れば、母さんも俺を判らなくて。(ちくしょう!泣いてなんかないっ!!)
泣かせてしまって。夕食時に再会を盛大に祝ってもらって。先に行っていたリボーンにも小言を言われて。俺たちが一緒の飛行機で来た顔見知りと知らされたツナに盛大に驚かれて。

俺の、この街での賑やかな日々が始まっていた。


「次―、沢田―」
「はい」

現在授業中。『並盛高等学校』の。

「He said ―――」

そりゃ、綱吉と同じ学校が良かったよ?
けど、俺はツナと3歳差で。今、綱吉は中一。必然的に俺は高一。同じ学校は無理だと言われました。日本の教育団体に殴り込もうかと本気で考えた。…母さんやツナに迷惑がかかるからやめたけど。たぶん。

「よし、OK!さすが帰国子女だな。流暢な発音で素晴らしい」
「……ありがとう、ございます」

考え事の片手間に教科書の朗読。簡単カンタン。
実は学校に通わなくても良いんだけどな。―――だって、向こうで大学飛び級で出てるし。
綱吉の手前言わなかっただけ。母さんも知らないから。

俺がマフィアだってこと。


あの日。綱吉が刺された、あの日。
俺は決心した。
セカイがまた俺を弾き飛ばすなら。予定調和と巻き込むなら。守ろう、と。「この子だけは絶対に守ろう」って。それが『わたし』にできる償いだから――――――。
そう思ったから、俺は滅多に顔を見せない父親に頼んでイタリアに飛んだ。守るための力が欲しかったから。

何かを得るには、何かを犠牲にしなければならない。…それはこの10年で身に染みた。
知識は得られた。力の使い方を学んだ。仲間と呼べる人が出来た。人の命を奪うことに慣れた。その代わり、本当に大切な人たちと過ごす時間を失った。普遍ではいられなくなった。秘密が増えた。ボンゴレに囚われた。

左手の小指に填った"ソレ"をそっと撫でる。

月日は偉大だ。
泣くことしか出来なかった幼子が、科せられた業を扱えるようになった。
哭くことしか出来なかった異端が、問いを超えて畏怖されるようになった。

それでも、君は―――。
10年も、連絡すらしなかった俺を覚えててくれた。

「………ふふっ」

嬉しかった。覚えててくれて。
泣きたかった。兄と呼んでくれて。
哭きた、かった。昔の『わたし』ではなくなったから。

あの頃の。何も知らぬ『わたし』は居なくなった。どこかで甘えていた。綺麗なモノだけの、生温い世界が全てだった。立ち位置を忘れた。だから、あの子が狙われた。
『わたし』は異端だ。それを利用して。大切なあの子を。彼らを守るために。時おりちらつく白い影に、飲み込まれないように―――。
そう思って、飛んだ先で。あの子だけだと思っていたのに。…大切が、増えて。

それらを継ぎ合わせて作った『俺』は。

「―――以上、ここまで」

修業のチャイムに教室内が騒ぎ出す。

「沢田ー。メシ行こうぜー」
「おー。…お前、また学食か?」
「だってカレーうどん食いてーもん」
「好きだなー、お前も。…それに比べて。沢田、今日のオススメ何?」
「卵焼き」

友人たちの動きに合わせて、弁当を片手に立ち上がる。
片目を瞑ってみせれば、友人たちは爆笑。


今日も、高校生活頑張ってます!

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