domani | ナノ



  それだけでわたしは幸せなのです。


「    、ん…」
―――本日はエアライン235便をご利用頂きまして、誠にありがとうございます。

ぼんやりと瞼を押し上げる。耳に届くのは聞き慣れたイタリア語、ではなくて。

「………目が、覚めたか」
「……り、ぼー…ん…?」

視線をずらせば、黒いボルサリーノを被った赤ん坊。その身体を包んでいた毛布が、一瞬でカメレオンに変わる。あ、レオンだ。

「そろそろ着くぞ、Quetzalケツァール
「……Si.」

未だ眠い目をこすって2、3度瞬きする。腕を上にあげて大きく伸びをすれば、パキポキと音がした。………俺ももう年かな。

「って!」
「お前が年なら家光はジジだな」
「だからって叩かなくても…」

わざわざレオンをスリッパに変えてさ。
叩かれた場所を手で撫でる。指の間をすり抜けていく髪に、嗚呼、伸びたな、なんて月日を感じた。


あの子は元気でやっているのだろうか―――?

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

なんて、思ってた俺が悪かったのか。
連れ合いはさっさと目的地へ。ちくしょう、俺が税関でもたもたしてたのが悪いんだけどっ。先に行くの一言くらい言ってくれても良かったんじゃないかな?ねえ?

ブツブツと愚痴を零しながら、見えてきたのは普通の一軒家。
変わらない暖かな空気に自然と口元が緩む。久しぶりの再会だ。あの子は覚えててくれるのだろうか…?

……ちょっと自信がなくなって来たぞ。
まあ、ここでウダウダしててもしょうがないし。玄関横のインターホンをゆっくりと押す。

「―――はーい。……、?」
「ただいま、綱吉」

扉を開けて、見えたのは優しいクルミ色。
ポカン、とした顔は幼くて。けれど、記憶よりも、先ほど見た夢よりも確実に大きくなっていて。

「え、…と……?」
「…あれ?忘れちゃった?ツナはヒドイなあ。俺は一日たりとも忘れたことなかったのに」
「…ナマエ、兄ちゃん?」
「うん、ただいま。ツナ」

にこり、笑えば。じわじわと実感したのか、思い出したのか(否、覚えててくれたハズ!)大きな琥珀の瞳が水を張る。
え、あれ?そこは笑顔で「おかえり」って言ってくれるとこじゃないのか??

グルグルと考え出した俺の前で。くしゃりと顔をしかめて。

「…遅いよっ!!!」

抱き着いてきた小さな身体を受け止める。

「悪かったって。いろいろ忙しくてな」
「でもっでもっ!10年なんて聞いてない!!!」
「それは……。ごめん」
「バカ!兄ちゃんのバカ!!!」

顔を埋めた胸辺りが湿っていく。
泣いているのに、大切な弟が怒っているのに。嬉しいと感じるのは間違いだろうか?

「ごめん。そんなに泣くなよ…」
「好きで、泣いてる、わけじゃない」
「うん、ごめん」
「………なんで、笑ってる の」

泪に濡れた視線が痛い。
けれど。

「うーん…。泣くほど寂しがってくれた、から?」
「ゔっ………………おかえり」
「うん。ただいま、ツナ」

嗚呼、幸せだ。

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