泣き顔さえも、 [ 41/43 ]


「それじゃあ、よろしくお願いします!」

「ああ。言っておくが、ナマエだからって加減しねえ。本気でやるぞ、いいな。」

「はいっ!」

分かってるのか分かっていないのか、敬礼するナマエはどこか浮かれ顔、な気がする。

ったく。壁外じゃ隣で守ってやる訳にもいかねえし、もう少し自分の身を守る事に真剣になって欲しいんだが・・・。

何故か叱れない自分もどこかで守ってやれると根拠もなく信じているのかもしれない。

それかこいつに甘いか・・・。


「よし。立体機動に移れ。俺に着いて来てみろ。」

「はい!」


アンカーを射出し、林の中を抜けて行く。

まだ急いでる時の半分も出していないが、ナマエは普通に着いて来れる様だ。

そういえばこいつは、立体機動の技術自体は悪くなかった。

斬撃が苦手なくらいで、それでも足を狙う討伐補佐役なら十分にやれるだろう。

しかしそれだけじゃ通用しないのが壁外だ。

出来ない事が少ないに超した事はない。


問題と言えば、もう少しスピードを上げた後、か。


ガスを吹かし、風を切るほどまで速度を上げる。

このスピードについて来れるのはミケくらいで、無茶だと分かっているが狙いはそこじゃない。
俺との差が徐々に開き始めた事で、ナマエが焦り出した。

ガスの調整やアンカーの射出角度、次に打ち込む場所の選定。

速度が上がるほど判断を急かされ、気持ちが焦る。


「あっ!」

案の定、刺したはずのアンカーが片方外れ、枝にぶら下げられて勢いに振られるナマエ。

こうなってしまえばさながら巨人の格好の餌だ。

やはりまだこの速度の慣れが足りねえな。
また定期的に訓練を付けてやらねえと。


「・・ごめんね、リヴァイ・・。」

「構わん。慣れが必要だからな。また練習するぞ。」

どうしようもなくなった空中の無防備な体を抱き留め、適当な枝に座らせた。どうやら怪我はないようだ。


「やっぱり急ごうと思うと、焦っちゃってミスしちゃうんだよね・・。」

「誰だってそうだろ。その速度に慣れてしまえさえすれば大丈夫だ。早く慣れちまえ。そしたらうなじを狙うのだってもっと簡単になるし、動きを避ける事だって簡単になる。」

「ふふ。リヴァイは簡単に言うなあ・・。」


膝に顔を埋めるナマエは、どうやら落ち込んでいるらしい。

さっきのが壁外だったら死んでしまっていた訳だし、当たり前だが・・・。


「俺だって、お前に生きていて欲しい。
その為ならこうして訓練に付き合う事も厭わないし、教えれる事は教えてやりたい。
だから・・頑張ってくれ。お前自身が頼りなんだ。」

本当は守ってやると約束出来たら、どれだけ楽だろう。

何故そんな簡単な事も約束してやれないのか。
考え出すとキリがない。仕方ない事なんだと、何度割り切ろうとしたか。


「・・・リヴァイ・・私、死にたくないよ。」

「お前は死なない。その為に今頑張るんだろうが。」

「あのね、誰にも言ってないんだけど死んじゃう予感がするの・・・何回寝ても消えない。壁外調査が近づく毎に強くなる。
こうして練習して足掻いてみても、消えないの・・
どうして私は弱いのかな・・?
まだやりたい事、沢山あるんだよ?
ねえリヴァイ・・死にたくない。
死にたくないよ・・・っ!」

いつからそんな予感に悩まされていたのか。

いつも明るく、屈託のない笑顔に隠れてこうして一人で震えていたと思うと胸が痛い。

ここまで恋人が追い込まれていても、俺は何もしてやれない。
たった一人の身さえ守ると約束出来ない自分に、価値なんか見出せない。

膝に隠れる顔を持ち上げると、包んだ手のひらに涙が這う。


泣き顔さえ愛おしいのに、



「キス、して?」

目を閉じた端からまた涙が溢れ落ちて、留まり切れずにズボンに落ちた。

大切にしすぎてあれだけ戸惑っていたのに頭はスッキリとしていて真っ白で、ゆっくりと唇を合わせる。


何度も何度も繰り返し唇を合わせて、もう二度と死ぬ予感なんかさせない様に。何も出来ない自分を忘れる様に、夢中で柔らかな感触だけを感じ取る。ナマエだって同じだった。

そのうちもっと深みを求めて頭に手を回し、舌を割り入れて。

歯列をなぞって、上顎を舐め取って、舌を絡ませてもまだ足りない。

唾液が漏れる事だってどうでも良かった。

ナマエは此処にいて、死んでなんかいなくて、これからもこうして二人でずっと一緒に生きるんだと教えてやりたかった。


「っ・・はぁっ・・・。」


唇を離すと糸で繋がっていて、その先に涙の跡を両頬に付けた赤い顔のナマエがいる。


こんなに愛しているのに、死ぬなど馬鹿な事を考えるなんて許せない。

二度とそんな事は思わせない。


「そんなクソな予感、俺が忘れさせてやる。」


なぜ腹立たしいのか。なぜ悲しいのか。

気づかないふりをして、ナマエを部屋へ連れて帰った。

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