ふたりの時間を、 [ 40/43 ]


「まさかリヴァイ・・・。

まだシてない、なんて言わないよね・・?」


人の恋愛のかなりデリケートな部分にずけずけと口を挟むクソな眼鏡の顔面に蹴りをお見舞いする。

余計なお世話だ。本当に。

鼻血を吹いて倒れ、靴底の跡が付いた汚ねえ顔を押さえながらも小さく震え、笑うのを堪えているこいつをシメる事に決めて拳を鳴らす。


「ほう。いい度胸だなハンジ。余程殺されたいと見た。」

「ぷっ!・・ま、待って!リヴァイ!だって・・・くっ!あは!あはははは!!」

ついに堪えきれず、腹を抱えて涙を流し大笑いするクソ眼鏡に戦意を一気に削がれた。
人が頭を悩ませてるのになんつー奴だ。

それもこれも全て自分自身のせいなんだが・・。

今だにシていない事に大笑いしてるこいつが、本当は口付けすらしていない、なんて知ったら大変な事になるだろう。


「リヴァイ、ハンジさん!」

心地よい声が聞こえ、振り向くとこちらに駆けてくる自分の恋人。

いつだって嬉しそうに駆けて来て隣に立ってくれるナマエが、可愛くて仕方がない。


「訓練終わりか。」

「うん。そうなの!リヴァイが見えたから走って来ちゃった。お昼ご飯、一緒に行かない?ハンジさんも一緒に!」

「ありがとうナマエ!もちろん一緒に「こいつは行かねえらしい。ほら、行くぞ。」

余計な言葉を遮って小さな手を引き、歩き出す。

さっきまで人の恋愛を大笑いしていたクソをこいつとの間に挟むなんざ御免だ。


「リヴァイ、今日はね、模擬戦闘で上手にうなじを削げたよ!」

「そうか。アンカーが抜ける事も無かったか。」

「う・・・それは、ね・・。」

「・・うなじを削げたのはいいが、アンカーが抜けるなんざ大問題だぞ。壁外で真っ先に死にかねん。
夕食が終わったら俺が練習を付けてやるから来い。」

「本当!?ありがとうリヴァイ!」

勢い良く抱きついた兵士らしくない細身の体を受け取める。


くっついた体や、すぐそこにある唇、腰に回した手に戸惑った。


「・・俺は守ってやれないからな。」


ゆっくりと言葉を発して体を押し戻す。

ぎこちなさを誤魔化す為に、頭を撫でた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ねえ、ナマエは兵長とどんな感じなの?」

「どう、って?」

「もう!恥ずかしがっちゃって!どこまで進んだのって話よ。」


休憩中。同期のエリーの恋愛話を聞いていると、私とリヴァイの話に振られた。

さっき聞いたエリーの話じゃ、もう彼とはとっくに済ませた、との事。

エリーだけじゃない。いつ死ぬか分からないから、それこそ燃え上がるように愛し合うカップルが多い事を知っている。

「わたし・・・は・・。」

キスすらしていない時は、何と言えばいいのだろう。


手を繋いだ、?抱き締め合った、?


「わたしは、キス・・・までかな。」

期待に胸を膨らませる友人の瞳を裏切れずに、事実とは違う事を言ってしまった。

きゃー!と歓声を上げる友人を複雑な思いで見つめる。

「まだキス止まりなんて、兵長ったら相当ナマエを大切にしてるのね。もう!羨ましい!」

「あはは・・そう、なのかな。」


抱く所かキスすらしてくれないのは何故なの?エリー。


嬉しくて抱きついてしまった時に優しく押し戻すのは何故だか分かる・・?


優しい彼の拒絶に気づいてしまって、どうしようもなくモヤモヤしてる。

二人の時間を重ねていく毎に焦る気持ち。

周りから取り残されて、リヴァイの気持ちからも取り残されている様な寂しさ。

いっそ乱暴な口付けでもいい。
もう少し深く、リヴァイと触れ合いたい。

そう思うのは、はしたない事なんだろうか。

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