人間的にというか動物的に、

「リヴァイ。ナマエとは随分遊んでいるようだな。」

「あ?遊んでなんかねえよ。あいつが殴りかかって来るから相手になってやってるだけだ。」

気持ち良く晴れた春の日の午前。

書類を届けに来た俺に上司はからかう様に言う。

「殴りかかって来る様に仕向けているのはお前だろう?」

その笑いには、何か余裕を感じさせる。
俺たちの馴れ合いを傍観し、それを楽しんでいるんだろう。
爽やかな付き合いとは程遠い馬鹿みたいな俺たちの馴れ合いを。


「・・・相変わらず趣味の悪い野郎だ。」

うんざりする様子を隠す気もなく文句を垂れるが、どこか掴みどころのない上司には全く届かずに涼し気な青い瞳を細める。

「はは。しかし、ナマエを手懐けるのは簡単な事じゃないぞ。」

「分かっているさ。」

攻撃的で、口を開いたと思ったら文句ばかり。油断するとこっちが引っかかれる。
野良猫みてえな奴だ。それもそこら辺ののんびりした猫らしい生き方の猫じゃあなくて、地下街の様な過酷な環境下を生きている野良猫。はっきり言ってたちが悪い。

まずはとりあえず人慣れさせねえと、な。

「どうするんだ?何か考えがあるのか。」

「ああ。もう手は打ってある。」

茶を用意し始めた上司を尻目に「手」について考える。
餌付けする訳にはいかないので今晩も甲斐甲斐しく手合わせをし、ナマエにゃ悪いが打ち負かさせて貰って質問に答えてもらうつもりだ。
2回手合わせした手応えから思うに、かなり手強い奴だが気さえ抜かなければ、負ける事はないだろう。

今晩の問いは何にしようか。

聞きたい事、気になる事は沢山ある。
こんな風に一つずつ小出しして聞くのが面倒に感じるくらいだが野良猫相手じゃ仕方ない。

闇に紛れ、こちらを訝し気に見つめるさながら野生の猫のナマエの姿が思い浮かんで笑みが零れる。

始めこそ男だろうと決めつけていたが、こうして頭の中で思い返してよくよく見ればやはり女らしい細くて薄い身体つきだし、強さの中の仕草も繊細な所がある。
体の柔らかさや、技の柔らかさだってそうだ。

あんな風に襲ってくるんじゃなくて、普通の部下みたいに俺を慕ってくれればここまで頼りになる奴はいないのにな、と思う。

そうなったら俺は、ナマエをどう思うだろう。

少なくとも、あいつの事は、魅力的だと思っている。

それは人間的にというか、動物的に(それこそ野良猫を手懐ける為に可愛がるような)とか、そういう気持ちに近いだろう。


昔の自分を見ている様で、何か放っては置けない。

「お前は、ナマエが好きなのか?」

「ぶっ!・・・てめえ・・な訳ねえだろうが。気になるだけだ。同じ団に一匹紛れ込んでる野良猫がな。」

ったく、見当違いな事を言いやがって。
危なく紅茶を吹き出して汚しちまうところだったじゃねえか。

「ふむ・・・そうか。」

計算でもする様に顎に手を当て、少し考え込んだ後、

「お前が惚れてる訳じゃないなら遠慮しなくていいな。俺はナマエに惚れているんだ。」

にかっと衝撃的な事を言うもんだから今度こそ俺は手を滑らせてカップの中身をぶちまけた。
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bkm