三日目。
いや・・・最初に踏まれた日から数えると四日目になるのか。
今日も俺は、懲りずに深夜の慰霊碑の前に居座っている。
踏みつけられた次の日には、この時間でも人が居る事を学習した面野郎はかなり警戒しながらやって来て、勿論踏まれる事はなく俺の大分後ろの方に立ち止まってそれ以上近づいては来なかった。
もう来ないかもしれない。来たとしても俺を確認した途端、逃げ帰るかもしれないと覚悟して居座っていたので、近づいてさえ来ないが正直逃げられなくて安心した。
顔を見ると(と言っても面を着けてるから見えねえが)逃げ出しそうなので、背中で気配を感じ取る。
俺が居ても変わらずナマエはきっちり時間通りに現れて、時間通りに消えて行った。
慰霊碑との距離こそ遠のいてしまったが、そこまでしても慰問を辞めないとは意外と頑固な性格のようだ。俺と張り合うかもしれねえな。
四日目の今日も、ナマエが来る時間より少し早めに慰霊碑の前に着いていつものように寝転んだ。
四日も経てばこの時間にここで見る星空と澄んだ空気と人気のない感じがすっかり気に入ってしまった。
ぼうっと時間が来るのを待っていると、草を踏み分けるいつもの足音が聞こえて来た。
相変わらず正確に時間通りに現れやがる。
違ったのは、いつも立ち止まる位置を過ぎても足音が近づいて来る事だった。
・・・やべえな。
勘が働き、身体を横に転がすと同時に今迄寝転んでいた隣に人が降ってきた。
安心する間も無く、殴りかかって来る腕から飛びのいて避ける。
距離をとっては詰められ、また距離をとっては詰められる。
あまりの速さに、繰り出される拳が風を切る音を耳元で感じながら避ける事しか出来ない。
ちっ!女相手にムキになりたくはねえんだが・・・。
腕が伸び切ったのを確認し腕を絡めて頭を掴み、足を払って頭を草の上に叩き落とした。
イメージ通り綺麗に決まり、清々しい。
やってやったぞ、ナマエの野郎め。
少し大人気ないというか、男らしくはないが、本気でこられた所為でこうしてやるしか他なかった。
大体こいつは、本当に女なのか疑わしい程に強すぎる。
少しくらい乱暴にひれ伏せた所で泣いたりしなさそうだし後腐れなさそうだ。
草に顔を擦りつけたまま動かなくなってしまった首根っこを掴み、持ち上げる。
「急に襲ってくるんじゃねえよ。」
ジトリと面と向き合えば、「何で毎日いるのよ」とかなり不服そうな小さな声が聞こえた。
思っていたより随分と幼く、女らしい声だった。
思わず面喰らう。
「・・俺の勝手だろう。それよりお前、随分女らしい声してるんだな。」
ー パシン ! ー
言い終わるや否や、向かってきた拳を手の平で受け取る。
こいつの手癖はどうにかなんねえのか。
喧嘩っ早くてロクに話も出来やしねえじゃねえか。
「はぁ。お前な、苛立つのは分かるが無闇やたらに拳を振りかざしてくんじゃねえよ。」
「・・・離せ。」
「頭に血が昇ると、動きが単調で直線的になる。お前の悪い癖だ。」
「・・・黙れ。」
「明日も来るんだろ。俺を打ち負かしてみろ。そしたら来るのを辞めてやってもいい。」
にやりと口元が笑う。
ナマエにゃ悪いが、負けてやるつもりはない。
掴んでいた首根っこを離してやると、軽い身のこなしで俺と一気に距離を取る。
相変わらず警戒心が強い奴だ。
だが、もっとこいつの事を知りたい。分からない事が多過ぎる。
「・・・その変わり俺がお前を一回打ち負かす毎に一つ、質問に答えてもらう。」
我ながらいいアイデアだった。
ナマエは慰問を辞める事が出来ない様子だし、あの性格じゃふっかけられた喧嘩は無視出来ないはずだ。
それに俺は負けない。
一日毎に確実にナマエの本心に近付けるだろう。
ナマエは何も言わずただ俺を見つめ、変わらず時間通りに暗闇の中へ消えて行った。
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bkm