認めてしまえば頭が冴えた


「何・・・だと・・?!」

「俺はナマエに惚れている。
だから他の者に紹介せずに隠すような待遇をしていた。俺以外の誰かの手に渡ってしまったら困るからな。皆んなの前に晒さなければ、その可能性は低くなる。

まあ、よりによってリヴァイに見つかってしまった訳だが・・。

リヴァイがナマエにちょっかいを出しているのが好意からなのか、ずっと気になっていたんだ。
好意でないというのなら問題ない。」


あまり気にしないでくれ、そう言っていつもと変わらない様子で紅茶を飲むエルヴィン。

俺にとっちゃ衝撃的な話だったんだが、こいつは何て事ないという風にいつも通り、涼しい顔で瞳をこちらに向ける。

確かに、ナマエが人嫌いな理由を尊重したとしても誰にも紹介せず、個室を与え、壁外調査で単独行動をさせるなんておかしな話だ。

それが想い人を他人から遠ざける為の歪んだ愛だったとしたら・・・納得がいく。こいつはそういう奴だ。自分の目的の為なら手段を選ばない。紳士的で聡明な立ち振る舞いとは到底似合わない我の強さを内に隠している。


じわり、と不穏な空気が身を包む。


深夜の戯れ。

月の僅かな明るさの中の、誰もいない澄んだ空気で一方的に拳を向けてくるナマエを受け流し、少しずつ縮めようとしている関係。


ー 何で毎日いるのよ・・!


初めて発した、強さとそぐわない幼く女らしい声。


全て自分だけのものだと思っていた。

オルオやペトラに「巨人を削いだのは誰だったのか」と聞かれた時、ナマエの事を説明しても良かった。話して部下達がナマエに興味を持ったって、ナマエが人を避けてる以上何も変わらないのだから。

でもそれをしなかったのは、やはり俺も目の前の男と同じ・・・だったのかもしれない。

いや、もっと前から・・・。

慰霊碑の前で待ち伏せした時から、エルヴィンにナマエの事を強引に聞き出した時から


もしかしたら最初から、


「・・・そうか。


やっぱりお前にはやれねえ。

どうやら俺もナマエに惚れちまってるらしい。」


いつから惚れていたのかも分からない。

さっきまで昔の自分に似ているからだと思っていた。

でも確かに、誰にも渡したくない。
ナマエを手懐かせるのは俺なんだと独占欲が胸に渦巻いている。

好きなんだと認めてしまえば、頭が冴えた様にすっきりとした。

きっかけとなった恋敵の上司を瞳で射抜いて見つめ合っていると、ふいに上司の顔が緩んだ。

ふっと口元で弧を描いて楽し気に笑っている。

・・何が面白いんだ。こっちは全く面白くない。むしろ胸糞悪いくらいだ。

一人笑う上司を眉間に皺を寄せ訝し気に見ていると、「冗談だ。」と言ってまた笑う。

「すまない。お前を試すような事をした。
俺はナマエに惚れてなどいないさ。
お前が本当に好きじゃないのか、本当にただの興味本意なのか確かめたかった。

やっぱり好きだったんだな。

俺がナマエにして来た事は、本当にナマエがそう望んだからだ。そこに特別な感情はないよ。
従わないと俺の元へは下らないと脅されてね。

フフ、リヴァイの言う通り、とんだ野良猫だよナマエは。」


やられた、と思った。

ったく・・この兵団にはロクな人間がいやしねえな。

まだクスクス笑っている上司にやってられるかと踵を返し、扉を開けた。

一刻も早くこの男の前から立ち去りたい。不愉快だ。

「見当を祈るよ、リヴァイ。」

「・・うるせえよ。」

こんな男にしてやられるなんて、自分が惨めだ。
ナマエと関わり出してからロクな事がない。
人類最強とは何だったのか。

あいつが関わってくると、俺もただのそこら辺の男と変わらないな・・。

溜息と一緒にからかわれたくすぐったい気持ちを追い出し、仕事に戻る為足を動かした。


自分の想い人だったらしい野良猫に今夜は何を教えて貰い、どう見えない心に近づくべきか考えながら・・・。
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bkm