教えてやりたくはない


例の初めてナマエを見かけた壁外調査から数日経つと、ナマエの話題がよく耳に入るようになった。

大方、目撃したオルオが嗅ぎ回っているんだろう。

関わりを持ちたくない為、役目を果たしてさっさと消える奴の事を覚えている兵士はかなり少なく、捜索は難航しているようだ。

さらに、異質で有り得ないようなその特徴も存在を曖昧にさせているようで一年も在籍していてここまで認知されていないとは感心させられる。

まあ俺たちは『面』や『刀』の名前も聞いた事が無ければ勿論目にした事もないから、中々現実と結び付ける事が出来ないんだろう。壁外なら尚更だ。

必死に存在を説明しているオルオと、幻覚を見たんだろうとオルオを蔑むペトラに笑いが込み上げる。

「兵長ですよね?」と、四体の巨人を削いだ兵士の正体を俺に問うペトラと、その横で緊張した神妙な面持ちで俺の言葉を待つオルオ。


何故か、あいつの存在を教えてやりたくはない、と思った。


「・・・あの四体の巨人を削いだのは俺じゃねえ」


曖昧な答えだけを返し、書類に俯く。



ほんとは知っている。

あいつがきちんと存在している事も、
その強さも、人嫌いな事も、毎晩慰霊碑の前に立っている事も。


まだ騒いでいる二人の部下の声を聞きながら、ナマエの秘密を大切に胸の内に隠した。


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bkm