みじかいゆめ | ナノ
どうしても守りたい
ー ドーン ! ー
衝撃音と飛んでくる瓦礫に、一体何が起こったのか分からなかった。
それから「壁が破られた」と、より壁に近い住民達が混乱し死に物狂いで逃げてくる様に、私も自然と壁の内側へと駆け出した。
断末魔があちこちで上がっている。
相当な巨人の群れが、ここに入って人を襲っているのだろう。
内側に向かってもう随分と無我夢中で走り続けている。
足の感覚がもうない。
「ハァ・・ハァ・・ッ!あ・・っ!」
何かに躓き、そのまま1メートルほど地に擦り付けられた。
「いっ・・ッ!」
這いつくばったまま後ろを見ると、瓦礫の直撃を頭に受けて即死しただろう人だった。
ハァ・・ハァ・・ッ
一度這いつくばってしまえば、もう立ち上がる事が出来ない。
もともと限界はとうに超え、気力で走っているような状態だったんだから。
走り続けた足は微かに震え、土にまみれて血が混ざっていた。
「もう無理だ・・。」
生きることを諦め、壁外に出ている恋人のことを想う。
きっと壁が破られたとは気づいていないはずだ。気づく術がないのだから。
彼がいれば、助けて貰っていたとは思っていない。
彼は人類の希望であり、何千人もの兵士の長であり。
いくら愛している人だとは言え、ただの一般市民の1人にしかすぎない私を助けるために動くなど出来ないのだ。
彼にもそう言われていた。
だからただ、逃げろ、と。
「・・リヴァイ・・。ごめんね。ちゃんとにげたんだけど・・。もう私、走れないの。ごめんね。」
ー ズシン ズシン ー
ー巨人だ。
初めて見たそれは、想像より遥かに大きく、人間の様な出で立ちをしていて、確かに巨人と呼ぶに相応しい容姿だった。
大きい、というだけで酷く不気味に感じる。
私の恋人は、こんなものと戦っていたのかと絶望に襲われる。
毎回、無傷で帰って来る彼。
私は何も知らずに、帰りを待っていたのだ。
「うっ。ウェェ・・ッ・・!」
途端に気分が悪くなり、地面に向かって吐いた。
巨人が私に気づき、見つめ合う。
ニタニタ笑っているような顔で、こちらに向きを変え、私を食べに来るようだ。
今から巨人に食べられると、自分でも分かっているのだが、
なぜか怖くなくなった。
動かない足に、生きることを諦めたせいか、
壁外にいて確実に助けに来ない恋人のせいか
なぜかは分からない。
「リヴァイ。今までありがとう。愛してる。生きて。」
こちらに向かって来る巨人の手の平を眺めながら、口から出た行き先のない、在り来たりの最期の台詞に笑いがでて、涙がでた。
巨人に掴まれ、自分の身体から骨の折れる音を聞き、意識が薄れる中、
巨人の首から鮮血が吹き出した。
「馬鹿野郎が!!逃げろと言っただろう!!生きることを放棄するな!!!」
壁外にいるはずの、私の恋人の怒号が聞こえた。
「・・・リヴァ・・。」
曇る視界で、ぼやけてよく見えない彼の輪郭を見た。
死ぬ前に、顔を見たい。
絞り出した声は、彼に聞こえたかも分からない酷いものだった。
「おい!しっかりしろ!・・クソ!!てめえ、死んだら許さねえぞ!!わかったな!」
今から兵団の救護に運ぶ
そう聞こえて、立体起動の音がして、
ああ。助けられたんだ。
助けないって言ってたくせに。
助けてくれた。
リヴァイの胸に抱きとめられている安心感に包まれて、そのまま私は意識を手放した。
「おい!こいつを診ろ!!絶対に死なせるな!」
救護に運び、それだけ伝えると巨人共の元へ戻った。
〜 〜 〜 〜
エルヴィンが「壁が破壊されたかもしれない。」と言い出した時、まさか、と思った。
トロスト区には兵団に入るとき、地下街から連れて来たナマエがいる。
あいつには「何かあっても優先出来ない」、と兵長として厳しい言葉を伝えていたが、到底守れる事ではないと自分では分かっていた。
あいつには俺しか居ないし、
俺にもあいつしか居ないのだから。
思っている以上にナマエの存在が自分にとって大きいと、嫌でも自覚している。
俺にとって、何にも代えられない存在だ。
馬を飛ばし壁に着くと、エルヴィンの言っていた通り壁に大穴が空いていた。
「チッ!」
猛スピードで目についた巨人のうなじを手当たり次第に削ぎながら移動し、探す。
何十体か削いだ後、ついにナマエを見つけた。
血だらけの足を地面に寝かせ、泣いていた。
一気に冷や汗が吹き出し、血の気が引いていく。
巨人がもう、ナマエに狙いをつけている。
「クソ・・ッ!!間に合えよ!!」
屋根を蹴り、自分が出せる最高の速度で移動するが、巨人の手がナマエを掴んだ。
「・・っ!・・んっの野郎が!!!」
最高速度のまま、そいつのうなじを深く削ぎ落とす。
ナマエを腕に抱きとめると意識はあるが、瞳が俺を捉えられずに彷徨う。
「・・リヴァ・・。」と、俺の名前を絞り出す様に呼んだのが微かに聞こえた。
この腕に抱きとめたのに、安心出来ない。
死ぬかもしれない、と思った。
・・絶対死なせない
死んだら許さない、そうナマエに伝え、救護に運んだ。
それから自分を保つ為に、無我夢中で巨人を削ぎまくった。
最悪を考えないよう、手を止めることなく、怒りに任せてブレードを振った。
それしか出来なかった。
巨人化した訓練兵の処理もあり、病室に行けたのは日を跨いだ深夜だった。
酷く疲れ、もう足など上がらずに引きずって歩いていたが、それでも体はナマエの所へ向かって行った。
「リヴァイだ。あいつはどこだ。」
「兵長・・!あそこです。」
一体、あれからどうなったのか。
生きているのか、死んでしまったのかー
情けねえな、人類最強の男が。
たった1人のせいでここまで落ちるなんて。
ゆっくりとベッドに近づくと、ナマエがいた。
微かに胸が上下していることで、呼吸していると分かった。
「っ・・・!」
生きている。
そう分かった瞬間張り詰めていたものが切れ、抑え切れず、拳で顔を隠す。
良かった・・。良かった。
しばらくしてゴシゴシと顔を拭い、いつもの表情に戻して、起こさないように髪を撫でた。
「・・ありがとな。」
小さく呟き、眠る恋人にキスをした。
目が覚めたら、何を言おう。
諦めた事に怒ってやるか、恋人らしく「お前が死にかけた時の気持ち」を伝えるか。
椅子に座り今夜はここで眠ることに決め、出来れば朝には意識が戻るよう願いながら、
俺も目を閉じた。
( ん・・。・・リヴァイ。
てめぇ・・よくも死のうとしてくれたな。
うん・・眠ってる間考えてたんだけど、私、信じてたんだと思うの。リヴァイが来るの。
!・・そうか。生きていて良かった。お前が死にかけたせいで、俺も死にかけた。
ダメじゃない。人類の希望なんだから。
もう黙れ。 ちゅ )
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