みじかいゆめ | ナノ



あなたのもの



結局、私が危惧していた通りの展開になっている。


宴会場の遠く。いつもより華々しい女性兵士達の輪と、その中心に居座るリヴァイを尻目に目立たない所でちびちびとお酒を飲む。


お酒の力を借りて、いつもより積極的な女性陣の世話を受けるリヴァイは、決して楽しそうには見えない、自分に好意を寄せてくれる女性を相手にしている男とは思えない、”不快感丸出しの怪訝な顔”なのだが、私から言わせて貰えば「だから言ったのに。」といった気持ちである。

あの例の雑誌が発売されるや否や、噂は瞬く間に兵士中に広まり、「休憩中にいつの間にか撮られていた」という問題の表紙は、恋人の私が見ても胸が熱くなるものだった。

いざ撮影が始まってみるとリヴァイの”三白眼”と、貼り付けられた様な”仏頂面”が仇となってしまい、中々女性の気を惹けるような人類最強の男の魅力的なカオが撮れずに困り果てた撮影者側が取り敢えずの休憩を挟み、その時用意されていた本を手に椅子に深く腰掛け、肘置きに肘を立て、しげしげと読み込むリヴァイを撮ったらしい。やっぱりプロの仕事だ。

ほんの少し開いた唇と、眉間のシワもないリラックスした素敵な人類最強の男がそこに写っていた。

しかもタイミング悪く、今度の壁外に調査の準備が幹部組で始まっているらしく、雑誌が発売された日からもう二週間ほど、この状況で会話する暇さえない。


「はあああ」と深い溜息を吐き、ちびちびやっていたお酒を煽る。
アルコールはリヴァイに禁止されているのだけれど、これが呑めずにやってられますかっ?

ぼんやりとしてきた思考に少し満足し、つまみのチーズを口に入れた。


「あれ?ナマエが飲んでるなんて珍しくないか?」

いつの間にか隣だったらしいハリスが、茶色の瞳に私を映す。

「今日は飲みたい気分なのよ・・。」

「そうか。俺もなんだよ。一緒に飲もう。」

正直、囲まれて今にも爆発しそうなリヴァイをほくそ笑みながら一人でお酒に浸ってしまいたかったので嬉しくはなかったが取り敢えず差し出されたグラスにグラスを合わせる。

ハリスは一気にそれを飲み干し、ご丁寧に私のグラスにも並々とお酒を注いでくれた。

そういえば強かったっけ。

ペースに呑まれないよう気をつけようと思いながらも、視界にあの”輪”がチラつく度にお酒が進む。


あれよあれよと言う間に、完全に酔ってしまった。


ふにゃりと机の上に項垂れ、虚ろな視界になっても気になるのはやっぱり彼の事で。
お酒の力を借りても、一時も彼から離れられないのが悲しい。

「ごめん・・・水くれない?」

「はいよ。」

少しでも胃の中のアルコールを薄めようとゴクゴク飲んだ中身も、何故かアルコール風味がする。

「ちょっと、さ。これお酒じゃん!」

「今日は飲みたいんだろ?ちゃんと介抱してやるから、気にせず飲めって!」

うーん。でもなあ、と、なけなしの理性が酒浸りの頭の片隅に踏ん張る。
怒られそうだし・・・ちらりと見ても、此方には目もくれず向こうもヤケ酒を煽っているらしい。
私はさっきからチラチラ見てるんだから、一回くらい目が合ってもいいのに。
リヴァイはこういうタイミングでこういう距離感が出来ても平気なのだろうか。


もしかして、寂しいのは私だけ?

だんだんと腹が立ってきて、隣に介抱してくれると言っている男がいるし飲んじゃえ、と、勢いでお酒に溺れる。

ぼんやりしていた視界が歪み、ふにゃりとしていた身体がもうぐったりとなった頃。
ようやくリヴァイの事が気にならなくなった。


「おい、大丈夫か?」

「う・・・ん・・ちょっと、気持ち悪い、かも・・。」

「よし。それじゃあ行くぞ。」


よし・・?

ハリスにされるがまま、肩に腕を置き、支えられてふらふらと足を進める。

宴会場の扉の前まで来た時、誰かが私の腕を掴んだ。


「・・・・・? 」

「・・・・何やってる。」

怖い顔、と思った。


「こいつ酔いすぎてしまったらしいので、部屋まで送り届けてきます!
お先に失礼します。」

ハリスが敬礼し、私も敬礼しようと思ったのだけれど、両手を捕らわれていて叶わない。

ギィ、とハリスが開けた扉を、勢い良く押し閉じる。

「待て。まだ話は終わってねえよ。」

ザワザワと、皆んなの視線が此方に集まるのが分かった。


「酔い潰して自分のモンにしちまうつもりだったんだろ?
お前はいつもこいつの周りをウロついていたからな。

俺も最近の現状にゃうんざりだ。
いい機会だから教えてやる。

こいつは ”俺の” だ。

俺もこいつの物だ。

分かったら二度とナマエに触れるんじゃねえよクソ野郎。」

ぐい、と思いっ切り腕を引かれた。

ハリスの肩に回していた腕が抜けて、硬い胸に支えを移す。

石鹸の香りがして、なぜか涙が出た。


あんなに騒がしかった宴会場が、シンと静まり返って物音一つしない。


「エルヴィン。」

声が静かな宴会場に響く。

「俺はこいつと先に上がる。いいな。」

「ああ。構わない。」

団長だけがいつも通り穏やかな雰囲気の笑顔を湛えていて、その返事を合図に抱えられ、宴会場を出る。


足音。鍵。扉。また鍵の音。を、ぼんやりと耳で聞き取り、大人しく預けていた体を放り出され、跳ねた体を押さえつけたのは彼の体だった。


「俺が誰だか分かるか。」


「・・・・・リヴァイ、」


「そうだ。なあ、ナマエ。俺はお前に酒を禁じてなかったか?」

リヴァイの舌が首筋を這い、吐息をかけられ、簡単に体が反応する。

「んっ・・・して、ました・・・。」

「なら何故、お前はこんなになってる?」

顎を掴まれ、ぼんやりな目を向けさせられたそこには長い前髪と、切れ長の鋭い瞳。


「それに、お前の周りに虫がたかっていて目障りだと注意していたはずだが・・・ここは聴こえていないらしい。」

「んっ・・・ぁあ、や・・あ!」

ザラザラした舌が耳を撫で、ピチャピチャと音が籠る。


「今日は優しくしねえ。今からお前の躾直しだ。」


火照る身体に与えられる快感に息を詰まらせ、身を震わせて、抵抗出来ずにただされるがままに。



「朝まで鳴けよ、ナマエ。」




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