みじかいゆめ | ナノ



兵士長の恋愛事情 C



昨日から眠っていなかった。
とっくに姿を出し終わった日の光の眩しさが徹夜明けの目にしみる。
本部も兵士達が動き出し、いつもの賑やかさに包まれつつある。

定時を過ぎても業務が終わらないのはいつもの事なのだが、今日まで仕事が響くのは困る。せめて昼前、あと三時間のうちに、目の前の書類の山を片付けてしまいたい。

今日は水曜日で、昼にはナマエに会いに行って買い物に付き合い、一緒に飯を食ってまた家へ送って帰る予定だからだ。
別に約束してる訳じゃない。
それでもナマエに会った日から、なんとなく習慣になった。
「また来週会おう。」そう言わなくてもナマエは俺が来るのを待っていたし、俺も前日には大概徹夜してその日の分まで仕事を終らせて会いに行った。

俺が会いに行くのを止めちまうか、ナマエが俺を待っていなければ終わる簡単な関係。
それでも俺にとっては大切な事だった。

「チッ!」

時計を確認すると、もうすぐ11時になるぞとほくそ笑んでるように見える。

目の前には、辞書を5冊重ねたような書類の山。
元はこの倍以上あったんだから、頑張ったほうだ。

「・・・ペトラ。」

出来れば会いたかったんだが、仕方ない。
もうどう足掻いたって間に合わない。ナマエを待ち惚けさせるのは避けたい。

「今から地図を書く家を訪ねて、伝言を伝えてくれ。ナマエ・ミョウジ宛だ。」

ペトラが部屋から出て行き、もう慌てて仕上げる必要もなくなった書類の山を恨めしそうに眺めてペンスタンドにペンを刺した。

いつもなら、11時には家に着いている。

怒っちゃいないと思うが、残念がっているだろうか。
少しでも、寂しいと思ってくれているだろうか。

もしそうなら、ナマエに言ってやりたい。
俺も同じだと。


「ったく・・・一体何考えてんだ俺は。」


伝言で伝えた「また来週」。
約束したのは初めてだな。

来週こそは会いたい、そう思ったら付け加えずにはいられなかった。

一緒にいると肩の力が抜けて、穏やかな気持ちで満たされる。
まるで体の内側と外側がくるりと裏返って、違う自分になったような気持ち。こんな気持ちは初めてだった。
誰かと一緒に歩いたり飯を食ったり、例え何もしなくても隣に気配を感じる事があんなに気楽で心地いいなんて。


「会いてぇな、ナマエ。」

ぽろりと口をついた言葉は気恥ずかしくも認めざるを得ない本音。
髪を掻き上げてやれやれと忌々しい紙切れをまた一つ手に取った。

prevnext