みじかいゆめ | ナノ



答えは簡単で A



兵団の主力で、人類最強の男と呼ばれる恋人と、普通の一般市民。

お互い違い過ぎる立場と環境だったけれど、不安に思った事は一度もなかった。

リヴァイは優しくて、ぶっきらぼうながらにとっても温かくて素敵な彼らしい言葉で愛してくれていたし、忙しい中で時間を割いては頻繁に会いに来てくれた。
それが僅かな時間でも、彼の立場を考えたら十分だったし、彼の仕草や表情を見れば余計な不安が陰る隙間もない事は分かりきった事だった。

だからいつもの様に彼を訪ねた部屋で見つけた物は、まさに晴天の霹靂で、しばらく身動ぎ出来ずにただその物と見つめ合った。

部屋の主であるリヴァイはおらず、机の上にはピンク色の封筒が置いてあった。

リヴァイが引き出しに入れずに机の上に置いてるなんて珍しいな、と何気なく視線を合わせてみると、「dear Levi.」とピンク色に似合う女の子の文字で、リヴァイの名前が綴られていた。

途端に目が離せなくなり、ドキドキと心臓がうるさく跳ねる。

考えてみれば、リヴァイにこういう事が無かった可能性の方が低いし、多分今までも何度かあったんだろう。リヴァイが上手に隠してくれていたおかげで、私が気づかなかっただけで。

じゃあこの手紙だけどうして・・?と、初めて見つけた彼へのラブレターに特別なものがあるんじゃないかと疑わずにはいられない。

いつ回されるかも分からないドアノブに緊張しながらも、薄いガラスでも持ち上げるようにそっと指を滑らせて手紙を持ち上げた。

裏を見ると、「from Alina.」と可愛らしい名前が載っている。

迷いながらも、まだ回される事のない扉を一瞥して曲げられているだけの封を開いた。

香りを纏わせてあるらしく、甘い香りがふんわりと鼻をくすぐる。

中から便箋をそっと抜き取り、慎重に開いてみると、封筒と同じ綺麗な文字が紙の上にちょうどいい余白を取りつつ並んでいた。

その文字には余裕があり、差出人の凛とした雰囲気が現れているようにも見える。


ー 兵士長。貴方が好きです。何時死ぬとも分からない身の上、後悔したくありません。

貴方が私を巨人の手から救ったあの日から、私は貴方だけに心臓を捧げています。 ー



私は優しい恋人に甘えて、怠け過ぎていたのかもしれないと後悔した。

可愛らしい見た目とは裏腹に、リヴァイに対する特別な、一般市民の私からすれば異様とも取れる内容の恋文に怖じ気付いた。

私はこんな風に激しく、燃え上がるような文章を書けない。

兵士という世界の、情熱的なこの恋文に私と、彼やこのアリーナとは住む世界が違うのだと気付かされるには十分だった。

リヴァイに命を助けられたアリーナと、アリーナの命を救ったリヴァイ。

人類最強と呼ばれるからには、助ける事もあまり難しい事ではないのかもしれない。
壁外調査から帰っても、心配を他所にいつも飄々として服も綺麗なままだし・・。

でも、やっぱりゼロではない確率で、リヴァイにも危険が及ぶんじゃないだろうか。

もし、このアリーナをリヴァイが助けようとしてリヴァイが死んでしまった場合もあったんだよね・・・。

そうなったら、私は彼を許せるだろうか。

良くやったねと言えるだろうか。

・・・もう自分が何故ここまで地の底まで落ち込んで何を考えたいのか分からない。

彼は私の知らない世界で生きていて、私はその世界を全く知らないから全て想像するしかない。

だから結局、考えてみても答えなんか出ないんだ。


そう自分の中で決着がついて、急にリヴァイに会いたい、会わなくちゃと焦るように思った。

手紙を元通りに、机の上に置いて「ごめんなさい」と差出人に謝り、急いで部屋から出る。

お気に入りの木の下にリヴァイを見つけて、何か考え込んでいるのが遠目からでも分かった。

急ぐ足は止めずに、リヴァイまで走る。

リヴァイはいつもの優しい顔で私を見て笑っている。

息切れしながら、「探したよ」というと「すまない」と言って「息抜きしていた」と言った。

アリーナの事、考えてた・・?

そんな風に嫌でも考えてしまう自分が嫌で、お気に入りのこの場所の空気に逃げようとリヴァイの隣で目を閉じる。

そよそよ吹く風が、リヴァイの石鹸の香りを微かに運んでくれて波立っていた心も徐々に落ち着いた頃、頬にリヴァイの指先を感じた。

肌を滑る小さな感触が心地良くて、うっすらと瞳を開けるとそこには切な気なリヴァイの顔。眉を下げて、困ったような悲しそうな顔で私を見ていた。

アリーナの事で頭が一杯になって悲しかったけれど「どうしたの?」と何とか声を出して、私もリヴァイの頬に指先で触れた。リヴァイがすーっと消えてしまいそうな気がした。

リヴァイの頬は少し冷たくてひんやりしていた。随分前から、ここで風に当たっていたんだろうか。

「・・何でもねえよ。」と、何かある彼からの返事に無理矢理自分を納得させて、頭は次の言葉を絞り出す余裕もなかったので力の抜けた重い頬を持ち上げてぎこちない笑顔で応えた。

リヴァイ、キスして?いつもこんな風に触れ合った後はしてくれるよね?

簡単なお願いが、胸にどうしようもなくつかえて言えなかった。

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