みじかいゆめ | ナノ



答えは簡単で B



それからはこういう言葉はあんまり使いたくないのだけれど・・・”最悪”・・で、今日に限ってやけにリヴァイと女性の兵士(しかも綺麗な人)がいる所に鉢合わせする。

二人書類を手に話し込んでいたり、装備を身につけて隣で並んでいたり、リヴァイが何か指示をして、女性兵士が一生懸命動いたりしていた。

私はその度になぜか物陰に隠れて、恐々とその状況を見守る。

リヴァイは私といる時より張り詰めた顔で、真剣な横顔が綺麗だなと見惚れては溜息をつく。

もうこんな卑屈な自分が嫌だった。

一つ気になり始めると、次から次へと目についてしまって終収がつかない。

こんな風に他の女の子の存在が気になったのは初めてで、情け無くてリヴァイに合わせる顔もなく、朝からずっと避けてしまっている。

「何をしているんだい?」

「!!」

ギクリと身を縮め、ゆっくりと振り向くとエルヴィンがにこにこと笑って私を見ていた。

「・・な、何でもないの!気にしないで!」

「リヴァイを見ていたようだが、声をかけないのかい?」

「ううん!いいの!大丈夫っ!」

明らかに挙動不審な私と、その先に女性兵士と話し込むリヴァイ。

エルヴィンは顎に手を当てて少しだけ考えた後、にっこりと笑った。

「なるほど。ナマエにもそういう感情があったとは。」

やっぱりばれてしまった・・。

「言わ・・ないで・・。」

顔を真っ赤にして、俯き小さな声でお願いする。

「ふむ・・・。それはナマエ次第、かな。」

エルヴィンは何だかとっても楽しそうだ。

意地悪、とあともう少しで口から出そうだった言葉は何とか飲み込んだ。
今はこの人の機嫌を少しでも損ねたくない。

「とりあえず、歩こうか。

ナマエも場所を移した方がいいんじゃないかな?」

後ろ手に指差すのは、話し込む二人の横顔。

迷いなくこっくりと頷いて、エルヴィンと並んで歩き始めた。こういう時のエルヴィンの誘い方は紳士的なのに有無を言わせない。

「それで・・いつも穏やかな君が、なぜそんなにやきもきしているんだい?」

ゆっくりと廊下を進みながら、青い瞳が私を見下ろす。

「リヴァイの机の上に・・・手紙があって・・・。」

「ほう。」

「私・・・見たの・・。ラブレターだった・・・とっても素敵な。

エルヴィン、アリーナって知っている・・?」

「アリーナなら知っている。ナマエが可愛いの象徴だとしたら、アリーナは美人の象徴、とも言うべきかな。」

すらすらと紳士の口から出てきたアリーナの情報が、彼女の魅力を物語っていてがっくりと項垂れる。

やっぱり美人なんだ・・・だからリヴァイ、あんなに悩んで・・・。

「リヴァイは、アリーナの手紙だから机の上に出しっ放しだったと、ナマエは思っているんだね?」

「うん・・リヴァイが机の上に置きっぱなし何て事、滅多にないから・・・。」

それにリヴァイ、何か変なんだよね。
そこまでは言えなかった。

エルヴィンの見守る穏やかな顔が、終わってしまうのが怖かった。


「ふむ・・・リヴァイが、ねえ・・・。」

「エルヴィンも変だと思うでしょう?」

「うーん、確かにリヴァイらしくはないが、私もリヴァイも何千人の兵士を束ねる立場にあるからね。
そう簡単に、ボロを出したりはしないよ。
リヴァイとは付き合いは長いが、リヴァイもそういう男だ。隠すと決めたら隠す。見せると決めたら見せる。

リヴァイの事は、ナマエの方がよく分かっているだろう?」

「・・うん・・。」

確かに、やっぱりリヴァイが机の上に出しっ放し、なんて有り得ない・・。

いつも塵一つない机に物が置いてあるなんて、リヴァイなら絶対苛々するもん。

って事はやっぱりあれはわざと私に・・・?


「ナマエ。」

「なあに?エルヴィン。私やっぱり、リヴァイはわざと・・・・・・っ。」


「見ない方がいい、と言おうと思ったんだが・・・遅かったね。」


一目で、アリーナだと分かった。


まさに美人の代名詞みたいな彼女は長い金髪をポニーテールにし、結べずに残った頸の後毛が色っぽくて潤んだ唇もそのすぐ横のホクロも端整な顔に映えて芸術的だった。

どうしたらこんなに綺麗なパーツがバランスよく顔に並ぶのか不思議でたまらない。

彼女が頬を染めながらも首に手を回し、抱き上げられているのは私の大好きな人。


リヴァイ、


口が勝手に名前を呼んで、そして噤んだ。

リヴァイも珍しく目を見開いて、それでも彼女をしっかり胸に抱えたまま私と見つめ合った。

降ろしてよ。

何で?

そんなドロドロした気持ちが胸に溢れて体を震わせる。

顔もどうしようも出来ずに酷く歪んで、持ち上げた手だって震えてる。


こんなの見せたくない。こんなの私じゃない・・・!

怖くなって、その場から逃げ出した。


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「・・見ないと思ってたらお前といたのか、エルヴィン。」

「・・そうだな。今日は一日ナマエといたよ。
彼女、一々愛らしくてね。手が出そうになるのを抑えるのに精一杯だったよ。」

「てめえ・・ふざけるのも大概にしとけよ・・。」

「いいじゃないか、リヴァイも新しい対象を見つけた様だし。
もう君のものじゃないんだろう?」

「・・何を言ってやがる。」

「ふっ、まさか知らなかった訳じゃないだろう?彼女の手紙さ。
お前がわざとナマエに見せた、今腕に抱いている彼女からの手紙だよ。」


頭が真っ白になった。

あの時どうでもいいと差出人すら確認せずに放った手紙は今胸に抱いてるこいつので、ナマエはやっぱりそれを見ていた。だから今日一日避けられていたんだ。


「・・エルヴィン、こいつを頼む。医務室だ。」

運んでやっていた女をエルヴィンに預ける。
一刻も早く、誤解を解いてやりたい。

「残念だ。このまま弱ったナマエを貰うはずだったのに。」

「てめえなんかにやるか、馬鹿。」

頭にさっきのナマエの失望した顔がこびりついて体を重くする。
それでもナマエが走った方に全力で駆け出した。

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