みじかいゆめ | ナノ
兵長と喧嘩 (兵士ver.)
「 ー リヴァイっ!!」
執務室で、俺が選抜し編成した特別作戦班で会議を行っていると、ナマエが部屋に飛び込んできた。
勢いに任せて開けられた扉が跳ね返り、鈍い音が部屋に響く。
俺以外のメンバーは書類に目を落とすのを止め、血相を抱えるナマエに何事かと目を向けた。
「ナマエ。会議中だ。後にしろ。」
肩で息をし、必死な顔で俺を見ているようだが、今は時間がない。
特別作戦班として、他の兵士より危険な任務に就く。
その為の大切な会議であって、いくら恋人と言えども、それを邪魔してはいけないのだと、厳しい態度をとった。
「っ!・・何で?・・・何で私は班に入れてくれないの?!」
悲痛な叫びが、俺に問う。
「・・・その話か。お前には悪いが、ペトラの方が適任だと判断した。それだけだ。
お前はお前に与えられた任務を全うしろ。」
納得出来ない、という風に拳を握りしめ、歯を食いしばって俺を見る瞳に、僅かに心が痛む。
ナマエを見ないようにはしているのだが、何分付き合いが長く、視界の隅に映った少しの仕草や気配で、ナマエの感情が分かってしまう。
小さく震える肩に、相当まいってるのも分かった。
・・・しかし、ここで折れる訳にはいかない。
どうしても、ナマエを俺の班に加える事は出来ない。
「だから何でなのよ!?
ペトラとは、討伐数は同じでしょ!討伐補佐数なら私の方が多いもん!!
リヴァイも数字を見たはずよ!?何で私じゃないの?私だってやれる!
私だってリヴァイと並んで戦えるのに・・・!」
ついに耐えきれず、涙をポロポロと零しながら、それすらも悔しそうに口を歪め、袖で拭うナマエの表情に、鷲掴みにされたような苦しさで胸が塞がる。
思わず目を瞑ってしまう程に堪えたが、ここで引く訳にはいかなかった。
厳しい態度で、ナマエをつき離さなければ。特別作戦班のリーダーとして、この新しい俺の部下達の前で、ナマエに本音をかけてやることなど出来ない。
「・・・・・そういうところだ。」
自分でもどきりとする程、低い声が出た。
「お前は感情的すぎる。
この作戦班は、兵士の中の精鋭を揃えてる。
お前は技術はあるかもしれねえが、メンタルが弱い。
そういう風に怒ったり泣いたり、気持ちをコントロール出来てねえからペトラを選んだ。
お前が班にいると、集中が削がれる。
いい加減出て行け。会議の邪魔だ。」
性格は粗暴な方だ。
口だって悪い。
誰にだって必要な時には冷徹な態度を取ってきたが、今回ばかりはきつかった。
ナマエの顔を見ては言葉を言えなかった。
痛む心を押さえつけ、半ば無理矢理にナマエに言った俺の言葉達は十分ナマエにショックを与えたようで、涙の跡をつけたまま放心している。
「・・・わかった。」震える声で微かにそれだけ呟いて、静かに部屋から出て行ってしまった。
閉められた扉から目が離せず、しばらく見つめていたが、今は会議中だった。
「始めるか。」と呟いて、また少しずつ会議に意識を傾けた。
会議も終わり、いつもの書類整理の業務を始める前にと、紅茶を飲んでいると、ナマエのノックが響いた。
先程、辛烈な態度を取ってしまった事を謝り、二人きりのこの部屋で早めに誤解を解いておこうとペンを置き、入れと促す。
「失礼します。・・エルヴィン団長がこれを今日中に提出しろとの事です。」
・・・やっぱり、まだ心の整理が出来ていないようだ。
他人行儀な言葉と、暗い瞳がそれを物語っていた。
「ああ。分かった。
ナマエ、お前も一緒にどうだ。そこに座れ。」
酷い態度を取ってしまったが、一緒に紅茶でも飲みながら話をすれば誤解も溶けて、またいつもの様に穏やかな瞳を向けてくれると思っていた。
仕事の合間にこうしてこっそりナマエと摂るお茶の時間が好きだった。
「いえ。まだ業務が残っておりますので。失礼します。」
淡々と誘いを断り、部屋から出て行ってしまった恋人に、さすがにまずかったと靄がかかる。
相当、傷つけてしまったようだ。
あんな風に俺を拒絶する事なんて、今までなかった。
いつだって優しく笑って隣にいてくれたのだ。
情け無いが、こんな時どうすればいいか全く分からない。
人の機嫌をとろうと思った事なんてないし、忙しい中でナマエとも順調に付き合ってこれていた。
さっきの言葉を考える。
思い返せば、酷い言葉ばかりかけてしまったかもしれない。
頭を抱え、乱れるのも気にせずに前髪を握りしめる。
さっきのナマエの態度が胸に刺さっている。
話し合いが必要なのは分かっていた。
とにかく、腹を割って話さなければ。
ナマエを捕まえる為、意を決して部屋から出た。
さっき、ハンジ宛の書類が手の中にあったからそっちの方に向かってるはずだ。
あまり音を立てないよう、廊下を足早に歩き恋人を探す。
「 ー いた。」
数メートル先を歩くナマエを見つけた。
気づかれないよう、徐々に近づいてタイミングを計る。
ちょうど部屋の扉の前に差し掛かった時、
ナマエの首に手を回して口を塞ぎ、そのまま部屋へ連れ込んだ。
後ろ手で鍵を掛け、驚き、戸惑っているナマエと対峙する。
「・・・・よう。」
「・・何か用がありましたか?」
俺と視線を合わさず、何もない地面を見ながら応える恋人に僅かに青筋が立つ。
「てめえ・・その態度を辞めろ。二人きりだろうが。」
「・・・・・。」
相変わらずの態度にため息が漏れるが、こいつをこういう態度にさせてるのは俺だ。
とにかく、話さなければ。
「・・・お前を俺の班に入れる事は出来ない。お前が「ペトラが好きだから?」
・・・・・・・・・は?
「兵長とペトラはできてるんだって、皆んな言ってる・・!
そうなんでしょう?だから私を遠ざけて、ペトラを班に入れたんでしょう・・・?
酷いよリヴァイ・・せめてちゃんと振るとかしてよ!!
じゃないと・・・気持ちが追いつかないよ・・!」
・・・・何を言ってるんだこいつは。
つまりナマエの話だと、俺がペトラとできてるから班に入れたと思ってるらしい。
そりゃあ、そんなクソみてえな理由とも似たり寄ったりだとは思うが・・・
「・・逆だ。」
「え?・・・・逆?」
「俺は、お前を特別作戦班には入れたくなかった。
特別作戦班っつーのは、危険な任務を選んで与えられる。その分死にも近い。
そんな班にお前を入れる事は出来ない。
俺は・・お前だけは死なせたくない。
こんな私情を挟んでいい事ではないと、分かってはいるが・・。
どうしても、お前の名前を書く事は出来なかった。
お前には、何があっても生きて欲しい。
・・・俺より先には死なせたくねえんだ。」
本当はさっき話すべきだった。
こんなクソみてえな自分勝手な理由を、最初にナマエに話しとくべきだったんだ。
自分の胸の中で嗚咽を漏らし、涙を零しながら俺の名を呼ぶ恋人に「すまなかったな」と伝える。
声を出す代わりに首を横に振って返事をするこいつが愛おしい。
「ほら。いい加減泣き止んだらどうだ。」
穏やかな口調で話しかけ、ハンカチで乱暴に顔を拭いてやればナマエが笑った。
安心して、いつもの様に腕を回して頭を胸に引き寄せる。
「お前を怒らせたのは初めてだな。」
「リヴァイに傷つけられたの初めて。」
「ペトラ達の前であんな理由言えるかよ。」
「初めて喧嘩したね。」
「ああ。もうしたくはねえな。」
「リヴァイ、喧嘩の後はね、キスで仲直りするんだって。」
「・・・また色気づいてる兵士の入れ知恵か?
ほんとにお前はロクな事を聞かされないな。
きちんと情報は選べよ。」
「・・・・しないの?」
「・・・・・・。」
「・・・。」
ー ちゅ ー
「・・・ふふ。」
「・・・・・ちっ。」
「あ。リヴァイ照れてる。」
「うるせえよ。黙れ。さっさと仕事に戻れ。」
「はーい! リヴァイ愛してるよ。」
「知ってる。」
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