みじかいゆめ | ナノ
兵長と喧嘩 (一般市民ver.)
この前、俺の恋人であるナマエが身売り人に連れ去られかけている所に居合わせ、無事に取り戻した後。
事態を招いた原因であるクソ眼鏡を、今度こそあんな愚行に走る事のないよう縛り上げて調教し、巻き込まれた結果ナマエを危険にさらす事になったエレンにも、それ相応の躾を施した。
念には念を入れとかねえとな。
これでもうコイツらが原因で、ナマエが危険な目に遭うことはないだろうとタカをくくっていたが、どういう訳か以前よりナマエに執着し、最近は二人でナマエを本部に連れ込む始末だ。
・・まあ、ナマエが本部に居れば心配する必要もない。
兵士長が一般市民の恋人を本部に連れ込んでるなんて事は大変な事態だが、俺が連れ込んでる訳でもねえし正直良いこと尽くめで気分がいい。
ナマエも普段行動を制限されてるだけあって、本部では隠れたりしなくていいし、伸び伸びと過ごせて幸せそうだ。
ナマエにとっていい状況なら別にハンジ共を怒る理由もねえし、「好きにしろ」と放って置いた。
今日もナマエは連れ込まれた様子で、なんだか本部が騒がしい。
もう慣れた事なので、楽しそうな声を聞きながら書類にペンを走らせる。
こういう雰囲気の中で仕事をするのも悪くない。
いつもより柔らかい表情筋も気持ちがいいもんだ。
スラスラとペンを動かしていると、扉が小さくノックされた。
ナマエだな、とすぐに分かる。
「入れ。」と声をかけ、そろそろと扉を開けて部屋に入って来たナマエを見て驚きのあまり声を失った。
部屋に入って来たナマエは、なぜかシャツに兵団のジャケットを羽織り、体には立体機動のベルトまできちんと巻かれていた。
少し恥ずかしそうに笑い、「リヴァイ。」と俺を呼ぶナマエにドクンと胸が脈打つ。
「お前・・・それどうしたんだ・・。」
「ふふ。リヴァイと一緒だね。一度でいいから着てみたかったの。」
そう言って、固まる俺の前に立ち、嬉しそうにこちらを見下ろしている。
思考が停止し、自然に手がナマエの方へ伸びて、自分の胸へ抱き寄せた。
「・・・・似合ってる。」
口が勝手に言葉を紡ぐ。
普段見ない姿からか、見惚れる程に心奪われた。
そのまま手が自然に口元に伸び、唇を合わせる。
「んっ・・。」
「ナマエ。」
甘い雰囲気の中で、このまま先へ進んでしまおうかと手を彷徨わせていると、「エレンが着せてくれたの」とナマエが言った。
その言葉に疑問を持ち、動きを止めて顔を離す。
「・・・・エレンに着せてもらっただと?」
「うん。着てみたいって話をしてたら、ハンジさんが用意してくれて、エレンが着せてくれたの。」
・・そう言って無邪気に微笑んでるが、俺の眉間には皺が寄る。
「・・・・まさかベルトを巻いて貰ったんじゃねえだろうな。」
ナマエの体に巻きついているベルトを見る。
緩んでいる箇所もないし、キツイ訳でもない。
丁度いい具合で、適切な箇所に巻いてる。
それは胸の上だったり、太ももの位置だったり、お尻の下だったりする。
「そうだよ?」とナマエが言った。
やっぱりか。
嫌な予感が見事に的中し、酷く腹が立って眉間に怒りが這った。
ナマエを胸の中から遠ざけてその場に立たせ、「なぜだ。」と問う。
俺が怒っている訳が分からず、急に問い詰められて不安そうに困惑している。
「なぜって・・ベルトの付け方が分からないし、ベルトを付けないと見栄えがしないってエレンが・・。」
「・・ほう。それでのこのこエレンにベルトを巻かせたのか、てめえは。」
男にベルトを巻かせるなんて、腹が立った。
それがどんなに男を煽る行為なのか、ナマエは全く分かっていない様子で、ただ俺を怖がっていて、その事にも腹が立った。
普通分かってもいいんじゃないのか。鈍感にも程があると、憤りが胸に広がる。
「・・何で怒ってるの?」
「てめえが鈍感すぎるからだ。少しは考えて行動したらどうだ。
相手がエレンじゃなかったら、酷い目に合ってるかもしれねえんだぞ。」
瞳に怒りを隠せず、ナマエに言った。
「何で?分からないよ・・こんな風に怒られるなら、着なければ良かった・・・!」
みるみるうちに眉を下げ、口を歪ませて涙をはらはらと溢す恋人に、怒りの中で焦りが生じて思わず舌打ちしてしまった。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
傷つくから辞めてと言っていた舌打ちをされ、悲痛な表情で立ち尽くすナマエに謝ろうと椅子から立ち上がったが、何も言わずに逃げるように部屋から出て行ってしまった。
信じられない、という風に目を見開き、涙をつけて走り去ったナマエのカオに胸を締め付けられてそのまま動けずに立ち尽くす。
あの時、思わず舌打ちしてしまった自分を斬り刻んでやりたいがもう遅い。
ナマエを傷つけてしまった。
今考えれば、あれはナマエに怒る事じゃなかった。
あの鈍感さも、人を疑う事を知らない故であって、それもまたナマエの人柄の良さであり、愛している部分でもあった。
言葉を間違えた。
ギリ、と奥歯を噛みしめ、ナマエを探す為に部屋を走り出た。
まだ遠くへは行っていないはずだ。
一番近くの部屋の扉から順に開けて行く。
・・・・・いねえな。
急に扉を開けられ、驚いた兵士達は無視して扉を閉める。
どこに行った・・・?
何か手がかりはないかと辺りを見回すと、中庭にナマエの姿を見つけた。
ちっ!よりによって、エレンの野郎といやがる・・。
俺に怒られた事を報告しているのか、目を擦り、しゃくりあげるナマエを心配そうに見つめるエレンが見える。
普通、喧嘩の原因になった男の隣に逃げ込むか?
二人の姿を見て、再び怒りが湧き上がるが、ここで間違えてはいけない。
さっきは怒りに任せて喧嘩になり、ナマエを傷つけてしまった。
怒るのは辞めて、仲直りすることの目的を忘れないよう努めなければ。
ふーっと息を吐き出して怒りを逃し、二人の元へ向かった。
「ナマエ。」
名前を呼ばれるや否や、サッとエレンの後ろに隠れるナマエ。
「・・・ほう。 エレン、そいつを渡せ。」
「で、でも兵長・・!ナマエ、傷ついてますよ・・。」
「分かっている。俺だって本意じゃなかった。色々と、意見の行き違いがあったんだ。さっさと返せ。」
間に挟まれ、オロオロするだけのエレンに見切りをつけ、「ナマエ。こっちに来い。」とナマエを呼んだ。
エレンの後ろから赤い目でこちらを伺う恋人に、手招きすると少しずつエレンから出て来た。
「・・リヴァイ、怒ってない・・?」
「ああ。怒っていない。だからこっちに来い。」
「舌打ちするなんて酷いよ・・。」
唇を噛み締め、俯くナマエ。
「すまなかった。お前が泣き出すから、つい焦ってしまった。
お前に泣かれると弱い。
頼むから、こっちに来てくれ。」
落ち着いた気持ちで、ナマエを諭す。
エレンの隣から、早く自分の元へ帰って来て欲しかった。
俺の顔色を伺い、ゆっくりとこちらに歩いてくるナマエを待ちきれず、近づいて抱き締めた。
首筋に顔を埋め、同じように手を回してくれた事に安心する。
「リヴァイ・・怒ってごめんね。」
小さな声が首元で聞こえた。
その言葉に口元が緩む。
無事に仲直り出来そうだ。
抱き締める力を強め、「悪かった」と言葉を返す。
腕の中に戻って来た温もりに安心した。
やっぱりこいつがいないと調子が狂う。
微笑ましくこっちを眺めているエレンを睨み、ナマエにバレないよう、口の動きだけで「あとで、おぼえとけ」と伝える。
喧嘩の原因を作りやがって。
大体、ナマエに頼まれた時点で断るべきだ。
断らずにのこのこベルトを巻きつけた、お前が悪い。
蒼白するエレンにフンッと鼻をならし、その場を去った。
「ナマエ。仲直りもしたし、可愛いお前を堪能したいんだが。」
「リヴァイ、仕事は?」
「そんな格好したお前が悪い。それに、リヴァイじゃなくて兵長だろう?」
にやりと口角が上がる。
思えば、こいつに兵長と呼ばれた事はなかったな。いい機会だ。
「何それ!?恥ずかしいよ!」
「うるせえ黙れ。兵長に逆らうんじゃねえよ。」
「・・・脱ぐ。もうこの服脱ぐ。」
「ああ。安心しろ。ちゃんと脱がしてやる。」
自分で墓穴を掘り、呆然と俺を見つめるナマエを今日はたっぷり可愛がってやろうと決めた。絶対に兵長と呼ばせてやる。
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