みじかいゆめ | ナノ



恋人関係 ( 偽 ) A





ナマエと名ばかりの恋人を始め、1ヶ月も経つと周知の事実として公認されてきた。

思った通り、クソ眼鏡に「恋人ができ、それはナマエである」と言っておいたのが広まったらしい。

あいつのお喋りは困ったモンだが、今回ばかりは利用してやったと、いい気分で紅茶を飲む。


・・・最近は本当に気分がいい。


俺に恋人が出来た事で、想いを告げてくる女共がぴったり止んだおかげで仕事も捗りまくりだ。

ナマエの方も、あんな風に迫られる事もなく安心して仕事をこなせている様子だった。


紅茶の香りを楽しみながら、鼻歌でも歌ってやりたいくらい優雅な休憩を取っていると、扉がノックされた。



「入れ。」


やって来たのはエルヴィンだった。


「リヴァイ。今夜、貴族から宴のお誘いが来ている。出席してくれないか。」

「断る。宴なんざ、くだらねぇ。お前一人が行けば十分事足りるだろ。」

優雅な休憩から一気に気分が落ち込み、腕を組んで頭をなんとか首で支える。

ああいうのは、俺にはめっきり向いていない。誰が見ても分かることだ。

それに比べて、着飾った貴族のクソみてぇな女共の相手を颯爽とこなすエルヴィンを思い出す。

見事な紳士的な立ち回りで、文句の一つもつけようのない振る舞いだった。


お前が行けば十分だと、エルヴィンの誘いを断った。


「今回は、ダンスパーティーなのでぜひ連れと一緒に、という事だ。

リヴァイにとっていい話だと思ったんだがな。」

意味深な笑みを浮かべ、俺を誘うエルヴィンに舌打ちする。


こいつ・・・本当は付き合っていない事を知ってて言ってるな・・。


「ちっ。 悪くない話じゃねえか・・。」


「そうだろう?ナマエにはリヴァイから伝えておいてくれ。

ちなみに、衣装はもう用意してある。
きっと似合うはずだ。」

全てを自分の思惑通りに動かし、颯爽と部屋から出て行くエルヴィンを横目で見送る。


・・エルヴィンの野郎には敵わねえな。


上手い事動かされ腹立たしいが、今夜はいい機会かもしれない。

この一カ月、本当に恋人とは名ばかりの関係だった。

会う事すらしていない。
大体、仕事ですら会う事はないのにプライベートな時間に会える訳がない。


こんなんじゃ、いつまで経っても先に進めない。

せっかくきっかけを作った。無駄にはしない。



今夜だ。

今夜、あいつを落とす。


にやりと僅かに口角が上がるのも気にせず、どうやってナマエの気を引こうか考える事に集中した。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「ナマエ。」

「あれ?兵士長、珍しいですね。どこかお怪我されたんですか?」

「・・恋人に会いに来るのに理由が必要か?」


途端に周りから面白い程の羨望の眼差しが降り注ぎ、赤面し慌てふためくナマエ。

腕を組み、「へ、兵士長?!どうされたんですか?!」と、耳打ちしてくる。


近すぎる距離が心地いい。

清潔な匂いが鼻をくすぐった。


「冗談だ。たまにはこういうとこも見せとかねえと、疑われるかと思ってな。

今夜、お前と貴族主催の宴に出席しろとの事だ。

ちなみに、お前に拒否権はない。

衣装は既にエルヴィンが用意している。
19時に本部前に来い。分かったな。」

俺も手をナマエの耳に当て、こそこそと耳打ちする。

別にこんな風に話す必要はなかったが、さっきのナマエとの内緒話が気に入ってしまって少しふざけただけだ。

俺の小さな声を聞き逃すまいと、真剣な表情で「うんうん」と頷く横顔に胸がくすぶられる。


・・・・可愛い奴だ。



「じゃあ、後でな。」

ぽん、と頭を叩き、優しい眼差しを向ける。


恋人気取りが、こんなに楽しいとは思わなかった。


満更でもないのか分からないが、嬉しそうに笑って手を振るナマエに視線で返事をし、今夜のナマエに胸を高鳴らせながら、軽い足取りで残りの仕事を片付ける為に部屋に戻った。


今日も仕事が捗りそうだ。

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