みじかいゆめ | ナノ



救いようのない






「 わー!! 」


古城に響き渡る悲鳴に、やれやれと顔を覆った。



「おい。ナマエ。うるせえぞ。」

「へーちょー・・ごめんなさい・・・。」


どうやら躓いてしまったらしいバケツと、それに入っていた汚ぇ水で水浸しの部屋に青筋がたつ。


「ほぅ。随分掃除が上達したみてぇだな、ナマエ・・。」

俺は綺麗にしろと指示したはずだが。

水浸しの部屋を呆然と見る。


ほんっとにコイツは、救いようのねぇドジだ。
絶対に何かやらかさねぇと気がすまない。


よくこんな人間が生き残っていると心底不思議に思う。
ナマエが生き残ってんのは兵団の七不思議と言われ、他の兵士にからかわれてるくらいだ。


しかし、謝り、泣きながら床を拭くコイツを、可愛いと思ってしまう俺はもう人として終わってるのだろう。


「ごめんなさい・・ごめんなさい・・!」


「・・・いや。いい。また綺麗にすれば済む事だ。気にするな。」

ぽん、と頭に手を置いてやると、それだけで救われたような表情をする。

その表情が、好きだった。

・・それで惚れたのかまでは分からないが。

むしろこいつのドジな所が放っておけなくて、いつの間にか追いかけるのに夢中になっていたのかもしれない。

こいつの何か惹き付けられる、そんな表情を見つけたのはその後だ。

それでもっと、このドジにはまっちまった。

本当に救いようがないと自覚している。我ながら。







ー コン コン ー


「ナマエか。入れ。」

「失礼します・・。眠れなくて・・一緒に居てもいい?」

「ああ。構わない。」

「ありがとう。」

眉を下げ、ニコリと笑う。


持参した枕を抱きながら、椅子に座る俺の前へ来ようとしてたんだろう。

扉を閉め、こちらに振り返って歩き出したナマエが後ろに引っ張られた様な動きをした。


見ると、パジャマの袖がドアノブに入り、動きを妨げていた様だ。


「・・・何でお前はそうなんだ・・。」


何でドアノブに捕まるんだ。

俺には理解できねぇ。


顔を真っ赤にして、ドアノブから袖を抜き取り俺を見ないナマエに、悩ましい頭を抱えながらも笑いが込み上げてきた。


「ふっ・・。おい。こっちに来い。転ぶなよ。」

来い来いと、手招きをする。

こっからすぐそこの距離ですら、転ぶかもとナマエから目が離せない。

そろそろと順調に進み、無事に俺の側まで到着した。


それだけで、よくやったと褒めてしまいそうになる。

ほんとに俺はイカれた野郎だ。



「ナマエ。」


名前を呼び、膝に乗せる。


鎖骨に顔を寄せると、ナマエの匂いがして落ち着いた。


「リヴァイ。何で私はこんなにドジなのかな?」

「気にしてるのか?」

「うん・・。だって皆んなにからかわれるし・・・。」

「誰だそいつは。俺が削いでやる。」

「ふふっ。それに、いつも今日は・この時間は・この指示は・絶対!ミスなく終わらせるって決心して、慎重に作業してても思わぬ所でミスしちゃうの。何でなのかな?気をつけてるのに。ミスなく終わらせたいのに。」


ぐずぐずと泣き出し、袖で目を拭うナマエを見つめる。


こいつに悪気がないのは分かっている。

気をつけて作業しているのも分かっている。


それでも何かしらドジをしちまう事で、ずっと悩んでいた。


「ナマエよ。お前が努力して、改善しようとしてるのは知っている。

でもまあ、別にそのまま、ドジのままでもいいんじゃねえか。

俺はドジなんざしねぇから、お前を守ってやれる。

お前一人守るくらい、手負いでもなんでも、ないから安心しろ。

俺は、そんなドジで、まぬけなお前と居て楽しい。ガラにもなく笑っちまうくらいにはな。今も笑っている。」


分かるか?とナマエに聞くと、「分かる。」そう言って俺の首に抱きつく。

「それじゃあ・・私はリヴァイと一緒になる為に生まれてきてのかな・・・?」

「そうかもな。」

「だってドジじゃなくて、しっかり者のペトラみたいな私だったら、リヴァイはこんな風に私を恋人にしてくれた?」

「・・しねぇだろうな。」

「・・・・・なら私、ドジでいい・・。」

ぎゅっと回していた腕に力を込めて甘えるコイツが、心底愛おしい。

お前はお前でいい。

そんなお前が可愛いんだと、俺も腰を寄せる腕に力を込める。


「そうだな。今の救いようのねぇドジなお前が好きだ。
だから泣く必要はない。笑ってろ。いつもへらへらしてりゃあ、それでいいんだ。」

顔を寄せ、熱を確かめ合う。

子供のような柔らかい肌と重なって、気持ちがいい。


「・・リヴァイ、ありがとう。

どうしてそんなに優しいの?」

「・・さあな。 」


てめぇだからじゃねぇか?

間近で囁いた言葉は、ナマエの耳にだけ入っていった。


りんごみてぇに赤くなって耳を押さえるコイツを、もっと甘くどろどろに溶かして虐めてやりたい衝動に駆られ、早急に小さな唇を貪った。








( 俺の前だけにしとけよ、そのドジは。 他の野郎の前でドジったらお仕置きだ。 )

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