みじかいゆめ | ナノ



温もりを分けて (船をこぐ続編)





「なあ。エルヴィン。」


「リヴァイ、どうしたんだ?ナマエの体調でも悪いのか?」


「あぁ。悪阻が酷い。水すら苦労して摂るくらいだ。お前、何か知らないか。食べられそうなモンだ。」


食堂で昼食をとりながら、目の前のエルヴィンに聞く。
博識な奴だから、何かしら知っているはずだ。


毎日ぐったりと、今もベッドにひれ伏しているだろうナマエのことを思う。


悪阻が酷い様で、何も食べようとしない。

何とかかろうじて、水分は摂れているくらいだ。それも少しずつだが・・。



「リヴァイ!私がナマエの悪阻に効く特製の栄養補給ドリンクを「いらねえ。悪いな。」

奇行種の特製ドリンクなんざ、ナマエに飲ませられるか。


「そうだな・・。フルーツなら食べれるんじゃないか?
希少だが、ウォールシーナ内なら手に入ると聞いた。

私がナイルに伝えておこう。」


「すまねえな。助かる。」


こいつに聞いてみて良かったと、胸を撫で下ろした。
これで少しは栄養が摂れるだろう。

この壁の中じゃ、食べるモンすら限られてる。地下街での酷い暮らしを思い出す。

早く壁外の巨人共を駆逐して、妻とこれから生まれてくる子供にはいい暮らしをさせてやりたいと、切に思う。

その為には、何も厭わない。

ナマエが妊娠し、身籠った事は、俺により力を与える出来事だった。

どうせ食べられないと分かっていたが、パンを持ち、自室に戻る。

何かせずにはいられなかった。






「ナマエ。」


「はぁ・・っ、リヴァイ、おかえり。」


また吐いていたのだろう。

壁に手をつき、血色が無く、涙が滲んだ瞳をこちらに向けるナマエに胸が痛む。


「・・大丈夫か。エルヴィンが、シーナからフルーツを調達してくれるそうだ。もう少し待ってろ。」


優しく大切に抱き上げ、そっとベッドに降ろす。

ありがとう、と辛そうに何とか微笑むこいつを、心底愛おしいと思う。胸が締め付けられる程に。



「・・すまない。俺は何もお前にしてやれないな。」


フルーツの事だって、用意するのはエルヴィンであって、自分ではない。

毎日ぐったりと項垂れ、苦しみ。
それでも泣き言一つ言わず、ただ耐え、受け入れて、自分の子を育てているナマエを。

俺はただ見ているだけだ。


「・・リヴァイ、そんな事気にしてるの?
私はね、毎日感謝してるの。お腹の子と貴方に。

だってこんな風にリヴァイに心配してもらって、独占してしまってるんだもん。

みんなの兵士長なのにね。申し訳ないな、と思うけど・・やっぱり嬉しいんだ。

それに、リヴァイがそんなに優しいカオするなんて知らなかった。


嬉しい事をあげたらキリがないくらい。


リヴァイ、こんなに素敵な人生にしてくれてありがとう。」





あまりの言葉に、何も言えなくなった。


礼を言うのは自分の方だ。

地下街で育ち、クソみてえな人生だった俺に、彩りを与えてくれた。

ナマエに出会った時点で、人生がひっくり返ったみてえなモンだった。

これからもっと楽しみな事が沢山ある。

こんな狭い壁の中でも、こんな風に生きる楽しさを与え、俺の存在意義をより良いものにしてくれた。



無性に触れ合いたくなり、自分のおでこをナマエのおでこに寄せる。


食べていないせいか、ナマエの身体の方が冷たくひんやりと熱が奪われた。


「冷えてるな。良くねえぞ、体が冷えると。」

そう言って布団をめくると、スペースを空けてくれたナマエの隣りに潜り込む。


身体を温めるよう、腕に閉じ込めて足を絡めた。


やっぱりひんやりしてるな。


「・・・リヴァイ、ちょっと暑い・・かな?」


「このくらいがいいんだ。いいから黙ってろ。」


まだぺったんこの、薄いお腹に手を伸ばして手の平をあててみた。

動いたり蹴ったりしねえが、そこには確かに俺とナマエの子どもがいる。

くっ付けた手の平から温かさが伝わり、体中に広がった。


「・・・なぜか俺があったまってんだが。」

「ふふっ。リヴァイ、愛だね。 愛。」

「愛・・・なのか・・。」


そうよ、と言って幸せそうに笑う。


何だか胸がくすぶって急に恥ずかしくなり、ナマエに顔を埋めた。



「リヴァイ。仕事は・・?戻らなくていいの・・・?」


「・・・ああ。 もう少し、だけ 。」


もう少し温めたら仕事に戻ろうと考えながら、腕の中の大切な二人を抱き締めて目を閉じた。






( ・・んー・・・!! わ! リヴァイ!リヴァイ起きて!寝ちゃってたよ〜!泣 )

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