19
熱いとも冷たいとも言えない、じわりと染み入るような生温さ。
触れる肩から、指先から、同じ温度になっていきそうで、それが少し不快。しかし背徳めいた喜びをも感じさせるから、人間とは性質の悪いものだとセバスチャンは思う。
寝台の天蓋は暗闇に満ちている。
星はひとつも観えないが、隣から聞こえる小さな吐息が、夜をやさしく暖めるよう。

「私も永く生きて参りましたが、さすがにこのような体験はしたことがありません」

真上を眺めたまま、直立不動の態勢で横になっている悪魔が物々しく呟くと、すかさず左の死神から応じる声が寄越された。

「君より永く生きて来たけどねぇ、小生もこんな閨は初体験だよ」

ちら、眼差しを遣ると、応えた相手も同じように眼差しを巡らせたようだ。左右から物言いたげな四つの瞳を向けられた真ん中の少年は、本心なのかそうではないのか判じ兼ねる顔つきで、さらりと答えた。

「そうか、退屈しなくていいだろう」
「……」
「……」

無言でいると、それを区切りにシエルは目蓋を降ろした。
左に死神を、右に悪魔を侍らせて、幼い主は夢の中へ。
この状況が、今後の三竦みの関係を如実に示しているようで、セバスチャンは内心うんざりとした。
まんじりと稚い美貌を眺めつつ、神と悪魔は文字通りただ添い寝をして、朝が来るのを待つしかなかった。



***



箱庭を眺め降ろしていたシエルは、頬杖をついたまま少々退屈気に言い遣った。

「死神と悪魔、さすがに人外の駒が二つもあると、復讐の成就は容易いな。その上、アンダーテイカー自身が握っていた謎や、事件の核心も多い。見ろ、セバスチャン。天使を追い詰めた」

シエルの背後から箱庭を覗く悪魔は妖しく笑んで、そのようですね、と囁く声音で応じる。
するりと首を撫で、鎖骨の辺りを彷徨う右の指を許して、シエルはくつりと笑った。

「左腕が痛むか、セバスチャン」
「ええ、絶叫をあげたくなる程度ですが。感覚リンクにより、このゲームが終わるまで、私の左腕は喪ったも同然ですね」

箱庭の中で、天使に左腕を斬り飛ばされた己を眺めて、セバスチャンは思わずの微苦笑だ。

「さぁ、ここからが見物だ。だがその前に訊きたい。お前は僕に何を望んで、何を混ぜ込んだ」
「それにお答えしたら、あなたも教えて下さいますか?」

シエルは執事を仰ぎ見て、悪戯な表情である。
鎖骨を撫でる指を掬い取って、鋭い牙で甘く苛みながらの釣れない文句だ。

「気が向いたらな」
「狡い方ですね」
「今更だ」

執事は肩を竦めて応じて、興味深げに盤上を見遣りながら、唇を開いた。


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