05
神が己に似せて人を創造したように、姿形を写し与えることは容易い。
難儀なのは、精神の模倣だ。
かたちなきものを視るのは、いつだって困難である。

シエルはまず、泥人形に資質を与えることにした。
善悪の線引き、取捨選択の仕方、価値の見出だし方など、そういう、謂わばシエルの根幹をなす部分を植え付け、同じような環境と、経験の記憶を用意してやれはいい。
あの地獄の闇の底、第九圏の穴蔵のような場所で、踊らされたヘドのでるサバト。そこで奴と出会わなかった「僕」が、このゲームの駒だ。

「僕を助けたのは…、そうだな、葬儀屋ということにしようか」

チラと流すような眼差しを向けると、セバスチャンは貞淑で謹み深げな表情で、ご髄に、と言って寄越した。
偽りの繰り人形だと分かっていても、不快に思う胸の裡。理性と感情の齟齬を、互いに暴き晒して貪ること、それが永の退屈に膿んだ心をざわめかせてくれる。
不快すらも愉しみと言いたげな微笑みを浮かべて、執事は壁際に佇んでいる。

「……そうだ」

人形に性質の核を放り入れようとして、シエルはふと動きを止めた。
上等の悪戯を思い付いた猫のように、ニィと悪辣に唇を吊り上げる。

「お前がやれ」
「私が、ですか?」
「そう、僕が思う僕を作っても、面白味も意味もない。この人形はお前の駒の相手、お前が思う僕を作った方がよりお前にとってリアルだろう。それに、お前が僕をどう見ているかも分かる」
「なるほど、面白そうです」

姿だけを真似た、目蓋を開けぬ人形へ向かって歩いてきたセバスチャンは、見せ付けるように、指先で造りものの唇を撫でた。
それを冷たく眇めたオッドアイで眺めつつ、シエルは自らの唇を舐めて見せる。

「お前が思う僕に、ほんの少し、お前が望む僕を混ぜろ」
「可愛げ、などでしょうか」

戯れに投げられた台詞に、お前が望むならと答えてやると、セバスチャンは珍しく口をつぐんだ。

「僕も、僕が思うお前に、僕が望むお前を、少しだけ混ぜる」
「了解致しました。さすが坊っちゃん、変わったゲームルールをご所望になりますね」
「ゲームは困難であればあるほど、そそるものだからな」

シエルはくつりと喉奥で笑って、湿った唇をもう一度舐め上げた。


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