全く我が主ながら、一筋縄では行かない。
自分に良く似た、
しかしあくまでも自分に非ざる他者を操らせる事で、
あらゆる感情の中で最も鮮烈で、最も苦いもの――
嫉妬という感情を、
シエルの中に喚び起こす罠を仕掛けたつもりだった。
嫉妬に妬かれるシエルを見れば、
数十年数百年の自分の倦怠が紛れるに違いない。
しかしシエルとて悪魔になって、もう長い。
要らない知恵がついたのか、はたまた元来の用心深さか。
土くれからアダムを創リ出したように、
持ち駒を各々創り、あまつさえ感覚を繋げよと、
逆襲に自分を試みてくる。
まったく今では私より悪魔らしくお成りだ――。
シエルは横たわったままで白い首筋をあえて強調する如く、
退屈そうに全身を伸ばした。
セバスチャンは、ふとその百合のような白い項(うなじ)に目を留める。
すると彼の瞳孔は細く狭まり、
虹彩は血のような暗赤色に染まっていく。
「何を見ている?セバスチャン」
そこに唇を這わせ口吻したい欲求と、
名も知らぬ野花を手折るように、
シエルのはかなげな細い首を絞め、折りたくなる衝動と。
まるでそんな自分の心中の葛藤を、
さも知り尽くしたようなシエルの提案。
「いいえ、何も」
悪魔の誘惑とは、
世界を混沌に帰し、心に疑惑を抱かせること。
果たして悪魔は自死を願うだろうか。
否。
少なくとも、私にはその思考はない。
まだシエルの中で、ある種の人間性が保たれている証拠なのか。
しかし、それは得られなかった彼の魂への、
自分の追憶的な感情にしか過ぎないのだろうか。
セバスチャンは自分で仕掛けた罠に、
自分がはまり込みつつあるのを知り、
表には出さずに心の中で独り、嘆息していた。
それこそが、悪魔の誘惑――。