異装と亡霊02


車窓に流れる街は祝祭の残滓に浮かれていた。車は街の頂を目指して走っていき、頂に近いところに茂る、造られた森に至って停車した。ぼくが降りられるようにドアを開けてくれた老人は、矮躯で品の良い、温厚そうな人だった。車を降りると、風が頬を撫で、筋とも斑ともつかないちぐはぐさで、刺すような冷たさを与えて去って行った。老人はぼくの手を引き、夜明け前の薄い蒼に包まれている小さな家に近づいていく。等辺の四壁からなるその家の窓からは、煌々と灯が溢れていた。
 そこはぼくの家ではなかった。だけど、焦ったりはしなかった。祝祭に浮かれた父が母を驚かせようと、一晩の宿を準備したのだと思った。そういったことはよくあることだった。
 老人はぼくと手を繋いだまま家に入った。最初に通り過ぎたのは簡素な寝台と卓の置かれた小部屋で、小部屋の半分は炊事場となっていた。後に、その小部屋は、ぼくの世話人兼家庭教師となる老人の住みこみ部屋であることを知った。小部屋を抜けると、応接間と居間を兼ねた大部屋があった。
 大部屋に通されたぼくは、饗宴の支度に目を丸くした。
 饗宴の卓は燭台と料理の皿と花々で埋め尽くされている。湯気を上げる炙り肉と、たっぷりのバターと蜂蜜が滴り落ちるパンケーキ、すべての季節の実りを盛りつけた高脚の銀皿。居並ぶ蝋燭は燃え盛り、葡萄酒の瓶は栓を抜かれることを待っている。卓に敷き詰められた花の白と黄は、燭火の瞬きに応えて黄金を閃かせている。さざめく蝋燭の炎は、花弁と銀器の影をゆらめかせていた。

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