twitter的お題消化
twitter的字数指定お題消化小話
(お題:宝箱・タクシー・mixi/140字×9以内)
「宝箱がほしいの」
久しぶりに合った姪がそんなことを言い出した。前に合ってから二年は経過しているだろうか。五歳になった彼女は私の膝に座って絵本を広げたまま、いっぱいに首を反らすようにしながらこちらを見上げた。
「宝箱?」
縁側に座る私の手が、風に捲られてゆくページを押さえる。姪のやわらかな髪が私の頬をくすぐり、庭を埋めるよう咲く秋桜が淡い色彩を残像としながら揺れ踊る。
「どうして宝箱がほしいの?」
「だって、宝物をいれておけるもの」
「宝物?」
私は首を傾げた。姪の目が揺れ、あどけない頬が膨れる。その様が可愛らしくて、くすり、と、私は笑みを零した。
「宝箱があっても、宝物がないとね」
私のこれに、姪の目が潤んだ。だから、私は慌ててこう付け加える。
「じゃあ、宝物を探しにいこうか」
唇を引き結んだまま、姪は答えない。秋晴れの空の下では、枯れ草と咲き誇る秋桜とが、褪せて乾いた音とやわらかな花びらとを混ぜ合わせていた。
たまたま実家に帰った私は、ひどい風邪をひいた妹が実家に預けた姪と再会した。電車で帰省した私には車がなく、運転免許を持っていない両親が住む実家に車はなかった。だから、茶の間でテレビを見ていた母に外出する旨を伝え、タクシーを呼び、姪を連れて乗り込む。そして、運転手に行き先を告げた。
「どこにいくの?」
行儀よく後部座席に座る傍らの姪が不安そうに私を見上げる。瞼を落とし、私は口の端を持ち上げた。
「宝物を探しに」
車中、景色に現れた見慣れない店や孫に誘われて最近mixiを始めたことなど、私と老齢の運転手は言葉を交わす。その間、姪は窓の外の流れる街を見つめ続けていた。
色づいた樹木がトンネルのように両端に並ぶ道、紅や黄の葉から零れ落ちる陽光を見つめたままの姪に問いを投げる。
「宝物は綺麗かな?」
姪は窓の外を見つめたまま答えない。
「きらきらしてるかな? 箱に詰められるかな?」
姪がこちらを向く。
「おじさんの宝物は?」
私は微笑む。
「さぁ、どうだろうね」
タクシーを降りて雑木林を進む。落ち葉が重なった地面は弾力に富み、頭上にて絡む枝葉からは、時折、蕩けるような朱に染まった乾いた葉が舞い落ちてきた。
「おじさんは宝物を見つけてるんでしょ?」
手を繋いで歩く姪が私を見上げた。
「ばれたか」
私は苦笑する。
「でも、宝箱には入りきらないんだ」
不意に林が拓けた。私たちが立つ丘からは、小さな町並みと遠くの稜線とが見え、それらはきらびやかな橙に染められていた。落日の黄金は鮮烈な紅に蕩け、稜線と融解するように太陽が青褐に黄金を撒く。黄昏に佇む私たちは、そこに在る彩りに圧倒されるままに、目を奪われていた。
「おじさんの宝物?」
「うん」
嫌なことのすべてを思考から奪ってくれる、子どもの頃からの宝物。
「宝箱に入れて抱えてなくても、なくせないんだ」
来た道を戻り実家に着くと、玄関先に向かって姪は駆け出した。
「ママ!」
姪の宝物は探すまでもなく、宝箱に入れなくても傍らに在る。
(了)
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