軸(企画)


 ある日、ノートと鉛筆を掲げてフローリングの床に寝転び、何やら計算式らしいものを解いていた少女がこんなことを言い出した。

「地球って軸が傾いてるじゃん?」

 少女の傍ら、散乱する何たら理論とかいう題名の専門書や惑星探査機の縮小模型や黒のチョコ缶めいた簡易軌道シュミレーターやらを押しのけてできたわずかな空間に座りこんでゲーム機のコントローラーを握る少年が、壁際の画面に真剣な顔を向けたまま、問いのかたちで生返事を返す。

「軸?」
「地軸。北極と南極ぶち抜いてる感じの」

 生返事にはなかなかにアバウトな解説が返された。

「で、それがも少し傾くと惑星凍結らしいんよ」

 少年が小さな悲鳴をあげた。ゲームオーバーの文字が画面には踊っている。

「そこで、いつかあたしは科学の粋を集め地軸を更に傾けてやろーと思うのさ」

 ノートに数字と記号を書き連ねながら壮大な野望を語る少女と、沈痛な面持ちで肩を落とす少年。悲痛を纏いながら、ちらり、と、少年は横目で傍らを窺う。

「なんで?」

 これに、少年の横顔を見上げ、少女はきょとんとした。

「だって、冷凍庫無しで氷量産できるよになるじゃん?」

 なぜ疑問とされるのかが疑問だとでも言いたげな少女に少年は眉をひそめる。ノートと鉛筆を放り投げ、寝転んで天井を仰いだまま、目をきらきらさせながら少女は胸のあたりで両手を組んだ。

「かき氷たべほうだい!」
「あほか!」

 べし、と、少年がゆるく投げたコントローラーが少女の額に命中した。少女は両手で額を押さえ、恨めしそうに少年を見上げる。
 呆れを隠すことなく少年はかぶりを振った。そして至極真面目な顔を少女に向け、

「どうせならその逆に傾けろ」

 と、希望を述べた。少女が小首を傾げる。

「そしたら、そこら中の車のボンネットでめだまやき焼き放題だ」

 勝ち誇ったかのように拳を握る少年。いたく感激したらしい少女は、頬を上気させながら、盛大にぱちぱちと小さな手を打ち鳴らす。
 部屋の入り口、盛り上がっている彼らに話の輪に入ることをためらう少年がひとり。

「根本的な発想、間違ってねぇ?」

 おやつのドーナツが山になった皿を片手に立つその少年の呟きが、さにーさいどあっぷ! とか夢花開いているふたりの耳に届くことはない。


(それは、かき氷とめだまやきをこよなく愛する彼らの、ちょっぴりがズレてる平和な日常)



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