水底の星(企画)


 夜に覆われた天球には星がちらばっていた。
 水に覆われた地平には星が映っていた。
 透きとおった星空と、透きとおった湖。星あかりに燐光を放つ藻が、ゆるゆると湖面を漂っていた。
 ひとりの少年と、ひとりの老人が、波紋をつくることもなく、透明な水面に立っている。水と宙の境目に佇むふたりは、星空でできた球体の中に浮いているかのように見えた。
 青に、白に、赤に、緑に。星から零れる光と藻から滲む光は、明滅し、混ざりあい、点滅を繰り返す。ぽろぽろと転がる星影と、ぼわぼわと沈む藻の光。夜と手を携えるそれらがたゆたう大気に、突如、紅蓮の帯が現れた。
 夜の青褐を、一瞬だけ、橙が、紅が、黄金が、まばゆく引き裂く。
 湖の底から湧きあがった紅蓮の帯は、水面を突き破り、弧を描いて少年と老人の頭上を飛び越え、水飛沫をあげて水底へと戻っていった。
 紅蓮の帯の家路の先には、膝を抱くように丸まっている、水底で眠る少女がひとり。

「光ってる」

 少女の腹のあたり。伸びやかな腕が抱きしめているのは、両手でなんとか掬えるくらいの大きさの、紅蓮の光球。

「あの子は?」

 少年が傍らの老人を見上げた。老人は水底を見つめる。

「あの子は、恒星《ホシ》を、惑星《ほし》を、まもっているんだ」



水底の星
(僕らは太陽をつくったはずだった)



earさま提出
お題/星



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