The tale of a Leanan-Sidhe 07
縺れた褐色の髪が、女の肩口から零れ落ちる。
ここでも景色は鈍色だ。
最も大きな家具であるテーブル全体を照らすのに手燭の炎で事足りる小さな家も、すべらかな木目の椅子などひとつもない粗末な小屋も、四隅に夜を残した屋根に葺かれた萱の裏も、すべてが翳っていた。
板戸が開く。女の眼が、指先から離れる。板戸から男が家に入ってくると、女は微笑んだようだった。
「おかえりなさい。漁はどうだった?」
女の無邪気な問いに、男はちいさな箱をテーブルに置いた。それは、紅い宝石が嵌めこまれた、藻に埋もれていてすら精緻な彫りをうかがわせる、輝きを帯びた小箱だった。
女が出迎えたのは、ひどく、無愛想な男だった。大柄で、筋骨逞しく、陽に焼けた肌をした、荒々しさを寡黙さで包んだ男だった。それが男の常であるのだろう。何事もなかったかのように、女は首を傾げる。
「これは?」
「網にかかった」
男を見上げ、女は目をしばたたく。男は女に背を向けた。そのまま、奥の部屋へと歩いていく。寝室だろうか。
「最近、不漁続きだったからな。持って行くところに持っていけば、いくらかの金になるはずだ」
歩を進める男の背に、女は声を投げた。
「この前、司祭さまにわるいものを追い払ってもらったでしょう。だから、あの時の御礼として、教会におさめたらどうかしら」
男の歩が停まった。男は息を詰めたようだった。それとも、女の純真すぎる提案に、呆れているのか。
「わたしなら大丈夫よ。あなたがいれば、しあわせだもの。あなたの妻であれることが、わたし、とても嬉しいの」
無垢でしかない微笑みが、可憐に、きらきらしく、女を彩った。
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