The tale of a Leanan-Sidhe 06


* * *

 ぼやけた視界の中で、エニシダの錘が回る。ふわりとした塊から指先が繊維を導き、糸を縒り、回転する軸が、それを細く縒り、糸として紡がれたものを巻き取っていく。
目に見えるものは次第に輪郭を鋭くし、それにつれて僕の意識もクリアになっていった。それは、うたたねの底からひきあげられるかのような、泥を掻き分けて大気を求めたかのような、思考における倦怠感を伴うものだった。
 あらためて手許に眼を移すと、糸を紡ぐ指が見えた。荒れていて、皮が厚く、細い。僕の指も似たようなものではあるが、これは、どこからどう見ても女の指だ。
 僕は困惑する。指先は糸を紡ぎ続ける。
 足もとを見おろすと、褪せた色の服を纏うまるみを帯びた肉が――なだらかに膨らんだ胸と、椅子に座る脚を覆うスカートが――ささくれた板張りの床に影を落としていた。これは、どこからどう見ても女の身体だ。
 僕は混乱する。指先は平然と糸を紡ぎ続ける。僕は息を整えようとしたが、そもそも、女は息を乱してなどいなかった。
 感覚と思考の、精神と肉体の齟齬に、脳が掻き毟られたようなぐらつきを覚える。混乱が高じて興奮を連れてきたのか、困惑が高じて苛立ちを導いたのか、それすら判然としない。ただ、吐き気とは違う、それでも、悪心としか言いようのない、きもちのわるさが僕を襲う。ためしに眉間に皺を寄せようとしたが、女の身体が僕の仕草をなぞることはなかった。
 音は聞こえる、匂いはない。糸を紡ぐ指先の、毛糸をつまんでいる感触もない。
 僕の意思をもって女の身体を動かすことはできないが、その代わり、女の見ているものをそのまま、僕は目にしていた。

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