The tale of a Leanan-Sidhe 02


 カーブをやりすごすために、不動産屋はハンドルを切る。

「これから見に行くのは、いい物件ですよ。大家は気さくだし、近くにいいパブもある」

 不動産屋のことばは正しかった。鍵を持参してきた大家は白髪の老人で、骨格という緻密な造形を服でくるんでいるかのような矮躯を、溢れんばかりの温厚さで包んでいた。佇んでいるだけで穏やかさを広めてゆくその老人は、奢ったところのない、親しみやすいひとだった。
 大家と不動産屋は飲み友達でもあるらしく、仕事中というよりは遊び仲間といった雰囲気で、話は進んでいった。物件の前で待ち合わせた私たちは、挨拶と打ち合わせを済ませると、二階の部屋に足を運んだ。案内された部屋は、キッチンなどの水回りの向こうに寝室とリビングのある、私には充分すぎる部屋だった。
 内覧を済ませ、私たちは部屋の外に出た。大家が扉の鍵をかけていると、ひとりの青年が階段をのぼってきた。しっかりと地を踏みしめているにもかかわらず、なぜか、ゆらりとした足取りで、地の底から這い上がってくるような印象を覚えた。
 それは、私と同じほどの年齢の青年だった。長身で、細身の、白にちかい半端な長さの金髪を無造作に束ねた、シャツとジーンズというラフな服装とはちぐはぐな印象の革鞄を手にした青年だった。青とも緑ともつかない彩りの目が、宙を彷徨っている。焦点を結んでいないわけではないその眼は、亡羊としているようでもあり、確信に満ちているようでもあった。

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