The tale of a Leanan-Sidhe 01


 その街の印象は灰色だった。
 透きとおっているわけでもなく、霞んでいるわけでもない。曇っているわけでもなく、ぼやけているわけでもない。透明度はひどく高く、彩度だけがひどく低い。そんな灰色が、晴れていても曇っていても、その街を覆っていた。
 私がその街を訪れたのは、春のはじまる、薄ぼんやりとした日のことだ。その街で仕事を見つけたから、その街に住んだ方が何かと都合がいいだろうと思った。それだけのことだ。だから、私は手頃な物件を求めて不動産屋の扉を叩き、こちらの条件を並べ、独身男性の住居に適した部屋の候補を挙げてもらい、では内覧を、という流れで、とある物件に赴くこととなった。
 車の助手席から、私は流れてゆく街並みを見る。ハンドルを握る不動産屋は、中年で、小太りな、青灰の目を持つ男だった。
 この街に住んでしばらく経った今だから言えることだが、不動産屋の目に凝っていた色は、街を包みこむ彩りそのものだった。街にとって、海は近しい位置にあったが、波音が聞こえるほどではなかった。時折、湿った風が潮の香を運んでくるが、街にとって、海とはその程度のものだった。それでも、天候に関係なく、街を覆う色彩が薄ぼんやりとしているのは、多分に海の影響ではあった。大気の中を歩いているにもかかわらず、水の底を泳いでいるように錯覚させるだけの潤いを、海は街にもたらしていた。
 物件を探していたその日、空は雲ひとつなく晴れていた。そこには、陽の気まぐれによって緑や橙がゆらぐ、猫の目めいた青灰が滲んでいた。滴り落ちてきそうな空は、それこそ、巨人の腕をもって支えてもらわねば、地に崩れてきてしまいそうだった。

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