暖かいですね




「っくしゅ」


荒船と話しながら歩いていたときに、ふとクシャミが出た。ふう、と一息をつく。歳をとるとクシャミにも体力使うなぁ、なんて呑気に考えていると横から視線をビシビシ感じた。そんなに見られるといたたまれないんだが。苦笑しつつ荒船を見ると、珍しく年相応にキョトリと目を丸くしていた。


「どうした?」

「…いえ、東さんのクシャミとか初めて見ました。レアですね」

「ん?そうか?」

「もしかして___が噂してんじゃ……げ。俺もう行きます。失礼します」

「おう、お疲れ」


帽子を外して一礼し、素早く去っていく荒船。礼儀正しくて面倒見の良い荒船が『げ』なんて言う相手は一人しかいない。


「春秋さーん!!」


パタパタと騒がしく駆け寄ってくる犬…もとい___。ガバッと飛び付いてきたのを仕方なく受け止めてやると、うへへと笑った。高校生のくせに、もっと爽やかに笑えないのか。


「こら、危ないだろ?」

「えー!だってだって!三週間振りなんスもん!しかも荒船さんなんかと仲良くしてるし!ガマンできませんでした!おれ、言いつけどーりテストちょー頑張りましたよ!褒めてください!」


清々しいくらい反省ゼロだなあ。撫でて撫でてと言わんばかりに、ぐりぐりと俺の腹に頭を押し付けてくる___の旋毛を見下ろす。成長しきっていない丸い頭に、そっと右手を置く。パッと俺を見上げた顔は嬉しさが滲んでいて、思わず自分の口元まで緩んでしまうのが分かった。

俺が笑ったのが嬉しかったのか、にへらと笑ってからまたぐりぐりと頭を動かして自動撫で撫でを始める___。可愛いやつだ。けどこのままはあまり良ろしくないな。通りすがりのボーダー職員達の生温かい目が突き刺さる。そろそろ止めるか。ぐっと右手に力を入れると、ぎゃん!と悲鳴が上がった。


「ひどい春秋さん!なんスかその握力!頭割れる!」

「ははは、こんくらいじゃ人の頭蓋骨は潰れないぞ」

「生々しい!そんな話題やです!久し振りなんですからもっとラブラブしましょっんぶ!」


べチリとピーチクパーチク煩い口を手で塞いでそのまま引きずって隊室に連れ込む。なんで目をキラキラさせてるんだ。なんて、分かりきっていることだけど。


「…っぷは!うへへ、春秋さーん」

「なんだ___」

「ここならいっぱいラブラブできますね!」

「ラブラブって…」


あどけない顔は確かに可愛らしく笑っている筈なのに、どこか肉食獣のそれに見えてしまう。呆れたフリをして吐き出した溜め息は期待で少し震えている。こんな子供相手に。


「ね、ね、春秋さん。さっきかわいいクシャミしてましたね?おれ、子供体温だからあっかいですよ!」


いつから見てたんだか。ぎゅうぎゅうに引っ付いてくる___は確かに温かい。別に寒くてクシャミをした訳じゃないが、まあ悪くないな。


「確かに温かいな」

「うへへ、恋人が子供で良かったでしょ」

「そうだな。恋人が “ ___で ”
良かったよ」


少年といって過言のない___と付き合うことは、きっと倫理的だとか世間的から見れば良くないんだろうけど、俺の恋人は子供の___だからしょうがない。大人でもきっと好きだっただろうが、___は子供だ。子供の___だけが、俺の恋人なんだから。


「っ!いま!いまの!キュンキュンしましたチューしましょう!」


ぶちゅう、なんて擬音語がつきそうな程勢いよくキスされる。前までよく歯をぶつけられてたのに成長したなあ、なんて思いながら___の小さい背中に腕を回す。___が笑ったのが唇越しにわかった。


「ん、はっ、……暖かいな」

「ふふ、春秋さんが照れて体を熱くしてるからおれもあったかいです!」


ああ、この熱は離せそうにないな。お互いに。


(貴方が傍にいてくれて幸せです)


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