それは恐らく罰だった。 「結婚することになりました」 目の前の男は笑ってそう言った。照れくさそうなその笑みに、俺はガツリと頭を殴られたような、そんな衝撃を受けた。いっそ本当に殴られた方がその言葉を聞くよりよっぽどマシだ。 「…そうか、良かったじゃねぇか。幸せになれよ」 頭ん中は真っ白なままだったのに、口は当然のように動いた。模範解答をなぞったような俺の言葉に、___はあざっすと笑った。俺も笑い返したが、上手く笑えているかは分からない。しょうがねぇだろう。本当に、本当に、___は幸せそうに笑っていて、そんな顔を前にして、俺は上手く笑えている自信なんてカケラもない。 「繋心センパイには親族の次に報告しようと思ってそわそわしてたんすよ!」 「…そりゃあれか、独り者の俺に対する嫌味か?あ?」 「違いますって!お世話になったからですよ!」 慌てたように両手をブンブン振る___は以前と何ら変わりはないのに、確かに変わったのだ。彼は、彼の自慢の彼女と結婚する。それを、親族の次に聞かせられるなんて。 当たり前だ。恋人になんかなれるワケねぇからと、せめて部活で1番仲の良い先輩であろうとしたのは俺だった。一瞬でも長く傍に居たくてそうしたのに、そのせいで俺は誰よりも早くこの想いを捨てなければいけなくなった。これはきっと罰だ。知らなければ俺はずっと、お前だけを愛していられたのに。 幸せそうに婚約指輪を見せびらかしてきた___の頭を軽くシバく。その俺の手は信じられないくらい震えていたが、コイツが気づく筈もない。無くすなよ、なんて心にも思ってない言葉は、半ば癖のようなものだった。「面倒見のいい先輩」はもう必要ないのに馬鹿馬鹿しい。 「…雨音、響いてんな」 「ありゃ本当っすね。帰るの面倒なんで泊まらせてください!」 おう、と___の声に反射的に頷く。ああ本当に馬鹿馬鹿しい。お前なんか、とっとと幸せになっちまえ。 (愛していました) to list |