雨音ビギニング




さああ、と何処からともなく聞こえてきた雨音に、思わず外を見る。雨が降っている。雨は好きだ、あいつを思い出すから。

あいつーーー___は、雨の日になると必ずコンビニに入って、温かい飲み物を買う。例え夏でも、温かい飲み物だったから、印象に残った。ある日___はいつもは一本しか買わないのに、レジに二本お茶を持ってきた。連れがいるのか、とさり気なく外を見るが、雨だからか人っ子一人いない。とりあえずレジに通して、商品を入れた袋を渡す。


「ありがとうございました」

「どうも。あと、はい」

「え?」


差し出されたのはさっきレジに通したばかりの温かいお茶だ。優しげに笑いながらも、その手は強引で、思わず受け取る。


「今日寒いっすから。それに、いつも俺が一本しかお茶買わなくても嫌な顔しないから、お礼っす」

「、ありがとうございます」

「?烏丸さんて高二?高三?」

「高一、ですけど」

「なんだ同級じゃん。敬語なしな」

「ああ、わかった。これ、ありがとな」

「ん、じゃあまた雨の日よろしく」


手を振りながら笑って店を出た___。それから雨の日になると、___はお茶を二本買って、俺に一本くれる。その度に何言か喋って、少しずつお互いのことを知って。気づいたら好きになっていた。変な話だ。中の良い男友達なんて沢山いるし、玉狛には小南先輩や宇佐美先輩みたいな女の人だっている。それなのに、俺が好きになったのは雨の日にしか会えない男だなんて。



「京介?」

「…___」

「何ぼうっとしてんだよ。構え」

「っん!…ふ、んん…ぁ、っ」


無理やり重ねられた口から侵入する舌に縋る。本当に、変な話だ。___も俺のことを好きになってくれるなんて、そんなの。


「っ、は、…やっと俺のこと見た」

「はぁっ、…バカ言うなよ。ずっとお前のことしか見えてない」


___は一拍あけて、顔を赤くした。俺も自分が言ったくさいセリフに体温が上がった気がしたが、まあ、俺のことだから顔には出てないんだろうな。


「…好きだ、___」

「京介…っ」

「何でか分からないけど」

「一言余計だバカ京介」


押し倒されて、無茶苦茶にじゃれるようにたくさんキスされる。でも、本当に分からないんだよ。そりゃ___の良いところなんて腐る程あるけれど、他の人だってもちろん良いところはある。男の硬い身体より、女の人の方がきっと触ってて気持ち良いんだろうし。というか、何で___を受け入れるのに抵抗が無かったんだろうな。全部俺のことなのに分からない。分からないけど、心底、好きなんだ。

雨が降っている。まだしばらく止みそうにない。___はきっと帰り道にコンビニに寄って、温かい飲み物を買うだろう。その様子を思い浮かべて、俺はひっそりと笑った。


prev next
to list


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -