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この手を繋がないで、と


私がこの場所に立つことなど考えたこともなかった。軍に居た頃魔物討伐を主とした私達は騎兵隊などといった、船を有する彼等とはほとんど無縁であったから。

しかし私は会った記憶がないというのに、突然ライトニング達が居る場所より少しばかり離れた場所に呼び付けた男、シド・レインズは言ったのだ。これで会うのは二度目だと。


「なにそれ、口説き文句?ルシであるライトニング達だけでなく重罪人である私まで庇えば、君どうなるかわかっているでしょうに」


「それでも私は構わないのだがな」


「呆れた、同じ軍人とは思えないねぇ」


まあ元、だけど。
と独り言のように呟いたメイルフォードは内心穏やかにはいられなかった。いくらスノウやファングが信頼しているからといって、そう簡単に信用していいものだろうかと。現に彼には大きな部隊が背にあるのだ、下手したらそのまま私だけ聖府に突き出されてしまう可能性だって拭い切れない。





少しばかりの不安に駆られているメイルフォードの、以前見た時と変わらぬ笑い方と艶やかなようで、決して揺るがない酷く壮麗な漆黒の瞳をまた見たいと幾度願っていただろうか。


確かにこの世界に在るのに、私では触れられぬような美しさを。


一歩、口を閉ざしたまま歩み寄りその滑りのよい戦士とは思えぬ頬と豊かなアッシュグレイの髪の隙間へ右手を滑り込ませてみても、メイルフォードは動揺さえしない。そうでなくては面白くなかった。


「軍へ戻りたいとは?」


「ないなぁ、帰ったってもう皆いない」


「ならば私の左腕となれ」


メイルフォードが抵抗しないことをいいことに、空いていた左手で彼女の肩を押さえ付け、シドは言った。まるで断ることは許されないかのように。だがそんなことで怯むメイルフォードではない。


だから彼女はいつものように笑い返すだけ。彼もメイルフォードがそう簡単に落ちてくれるような女性ではないことを察していたため、穏やかに微笑み返す。


「素晴らしいお誘いだけれど、私は今を立ち止まることが出来ないのよ」


「…、その時までに」


そう言ったシドは繊細な夢に触れるかのように、メイルフォードを優しく抱き、印象深い笑みをいつも浮かべている唇へ己のそれで、そっと触れた。




「君の居場所を作り、預かっておこう」




高嶺の花ほど、手に入れるのは難しいから夢だけでも見させてくれないかと、柄でもないがせめてもの願いを囁いた時だった
――――――――――――
》拍手でリクエストの多かったシド・レインズさん夢でした。
シリアスが多い当サイトでありますが、せっかくですから恋愛色(?)強めてみました。一方通行で片思いなのは譲れないですが←!
お気に召して頂けたら幸い…ちなみに製作中BGMには挿入歌の『Eternal Love』をずっと聴いてました。良い曲ですよね。(10.1/7)

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