小説 | ナノ
その姿はかつて、


「なぜ、…」



焦燥漂うこの地は誰かが約束した願いがちりばめられていただろうか。答えは否、何故なら此処は戦場なのだから。

しかし目の前に悠然と佇む女性を忘れたことはなかった。かつて同じ場所に立っていた筈なのに、決して届くことのない理想に抱かれた、自分にはない気高さと美しさを孕んだ強さを。



「いまさら軍に戻れるとでも思っているのか!己へ託されていた隊を率い、コクーンを救うなどといった狂言のもとダイスリー代表暗殺を目論んだメイルフォード・ベンメリアよ!」


ロッシュが彼女を指すかのように、声を張り上げた瞬間待機していた兵達がメイルフォードへ銃口を向ける。対するメイルフォードは、明らかに不利なこの状況であっても、何時もの笑みを浮かべていた。ロッシュにとって忘れることのできないあの悠久の色を。


「やはり私の考えは間違っていなかったようだねぇ」


「何を…っ」


「ロッシュ。君のその心、共に歩むことができたらって何度思ったか知ってる?」


「―――何も、何も語らなかったあなたの気持ちなど知る訳ないだろう!」


そんなこと言い出すくらいなら、どうしてあの時あんな出来事を起こしてしまったのだと問い詰めることが出来ない自分が悔しい。今、対峙するあなたは敵なのだからと。


そう思い込む度、心の奥に押し止めている想いが軋んでいた。


「だろうね。でも、私は今生きる為に此処にいるから」


彼女が手にした武器の色、他の誰にもない漆黒の瞳の強さが、酷く美しかった

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