小説 | ナノ
覚えていて欲しかったなまえ


「君の名前は、本名じゃないって聞いたけど」


唐突に振り返り、いつもより一際わざとらしく浮かべられたメイルフォードの口元の笑みがやけに視界に映る。ライトニングには、その笑みがどうしてかまだ軍に居た頃見たことがあるような錯覚を覚え、僅かに瞳を細めたが気のせいであろうと直ぐに隠した。動揺の色を。


「名前がどうした」


「君は守りたいが為にライトニングという名前があるから、羨ましいだけさ」


「……違う、ただ無力から来た子供の虚勢だ。なにも褒められるような意味さえない」


「それでも羨ましいさ、意味を生かしきれないまま生きている私から見たらね」


そう語るメイルフォードは直ぐに前へ向き直ると背に提げていたダブルセイバーを取り、僅かに腰を落とす。目の前には、獲物を見つけた魔物が猛々しくも悍ましい欲をぎらつかせている。

メイルフォードに倣いライトニングも剣を構えながら、もう一度彼女の背中を眺めた。時代錯誤も甚だしいくらい廃れた配色の、このコクーンという世界には異質でいびつな存在感を。

「メイルフォード、おまえの名前の意味を教えてくれないのか」


魔力に従い青白い揺らぎに抱かれた風が、ほの暗いメイルフォードを優しく模っていた。





「――"花束の池"」


(笑えるくらい似合わないよねぇ)、そう揺れた声で言ったメイルフォードは笑っていたのかさえ、私には、

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