小説 | ナノ
緋色アーベント


「そんなとこで寝てると風邪ひくぜ?」


うつらうつらとしていた、閉じかけた視界が微かに暗くなり上から声が降ってきた。メイルフォードはそれが最近ようやく覚えた新しい仲間のものであるとわかっていたから、半開きな漆黒の双眸を声の主に向ける。


「だらしねーな、せっかくの美人が台なしだぜ」

「ファングは下から見るといろいろとすごいねぇ」

「どういう意味だっての、変態」


そのまんま、とメイルフォードが微かに笑ってみせると呆れたような、それでも彼女なりに笑ってみせた。ファングはかなりさばさばとしてるけど人に対して決して厳しいというわけではない。ヴァニラとのやり取りを見れば誰だって一目瞭然だった。


「しかし、スノウのいう通りだなアンタって」

「………、なにが?」


アイツがうちらと手を組むと決めてからは、スノウはやけに馴れ馴れしい感じだったけど別に嫌ではなかった。むしろ変にギスギスしていたらそれはそれで面倒くせぇしな。だからかわからないが、ライトニング達と合流するまでの会話の中で話題に良く上った名前は彼の婚約者で今はクリスタルとして眠るセラ、彼女の姉であり元軍人であるライトニング、そして。


ファングはメイルフォードを見下ろすようにしていたが、寝転んだままの彼女の隣に腰かけた。彼女達が居るのは廃棄された機材の上。肌に直接伝わる冷たさが不快だ。だから風邪ひくって言ってやったのにこいつは。口には出さなかったが、ファングは横目で今にも眠りにつきそうなメイルフォードを視界に納め、小さく息を吐く。


「"花みたいによく笑う人"だって、愛されてんじゃねーか」


あえてからかう意味でそう言ってみたのだが、ファングは後にそれが後悔に変わるなどとは思ってもなかった。

花、という単語を耳にした途端、微かにメイルフォードの双眸が驚きと僅かな焦燥に駆られた色になったのをファングは見のがさなかったのだ。まるで隠していた事を教えたことがない筈の人から突き付けられた時のように。それでも、メイルフォードは小さく笑い直す。それはもう、諦めにも似ている何故か悲しい表情みたいだと、ファングは息が詰まる思いを知った。


「それは、嬉しいねぇ」


今度こそ眠りについてしまったメイルフォードに声をかけるなんて出来るはずなくて、ただファングは彼女にブランケットをかけてやり、隣で夜が明けるのを見守っていた。そうしなければ、メイルフォードが朝にはいなくなってしまう気がして少しばかり怖かったのだ。だから、明日メイルフォードが起きたら一言でいい。謝りたいと思った。

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