小説 | ナノ
Heath by underground


『―――隊長、ターゲットすべて殲滅完了との伝達が入りました。今回も欠員なく皆無事だと』


「そう。お疲れ様、君たちはそのまま陣営に帰還して」


『了解。隊長もお気をつけて』



ワイヤレス型のイヤフォンマイクのスイッチを切ると、先程まで聴こえていたノイズが嘘のように静寂だけが息づいているかのように。焼けた魔物の鼻孔を刺激する厭な臭いはいつだって気味が悪い。メイルフォードはさして隊員の安否など気にしてはいないほど落ち着いている。言い方を変えると、それほど信頼しているからだ。


「メイルフォード隊長!」


自分も今回同行した―――とは言っても魔物討伐を実際に受け持ったのは彼女達であるが―――PSICOMという聖府お抱えの軍隊へ直接任務を完了した報告に向かおうとした刹那、メイルフォードの名前を呼ぶ声が聴こえた。

「どうしたの、もう敵はいないんだから気抜きなさいって」

「隊長がゆるすぎるだけですって!全く…」


そう言って、彼は目元を保護するためのゴーグルを上げ、慣れてしまっているのか彼女を呆れたような。しかし笑いながらようやく緋色の瞳に柔らかな色を宿す。瞳と同じ色の髪を纏めているヘアバンドの深い緑色が、やけに眩しい。


「……で。今から戻るんですよね

「当たり前じゃない、こんな呪われそうな場所にいつまでも居たくないよ

「子供みたいな理由」

「煩い。あんま調子乗ると今度から隊長の座を強制的にやらせるよ」

「ひでえ職権乱用だ!」


青年はそうは言いながらも笑っていた。だが、メイルフォードがPSICOMのところへ行くと言った時より彼の胸中はざわざわと騒いでる。寧ろ、聖府に居る立場であるのに彼には誰にも言えない聖府を恨む理由がある。青年はその為に此処に居た。服従しているように見せ掛け復讐を、と。


だが、結局彼はそれを果たすことができないままでいる。その原因は今目の前に居るメイルフォード・ベンメリア。


かつて力を着ける為にこの部隊の異常な立場を利用してやろうと考え、持ち前の狩猟感覚を生かし受かるのも困難な試験を死に物狂いで切り抜けた。すべては己の目的の為に。そう考えて。

だが、実際に部隊に就いて彼は酷く驚かされる。半ば捨て駒のような望みがないような世界を目指した人が自分以外にも居たこと。そして―――



『―――君が副官希望の人?私が隊長となるメイルフォード・ベンメリアです。心配しないで、この隊に入ったからには責任持って私が護るから』


護る。
彼女は笑ってそう言ったのだ。

彼女だけでなく、この最も死の香りが近い部隊であったとしても、隊長が彼女だからこそこの部隊に入ることが最上の喜びだと謡う者までも皆笑っていた。確かにメイルフォードは人目を引く美しさがある。だがそんなことだけでなく、ある者が言っていた。





あれ程無垢な者がこんな世界を率いている、恐れを知らない自由な姿がいつか"俺達の夢"となってくれると思えたから、俺達は隊長に付いて行きたい。と




緋色の青年はふと思い出した過去と今を重ねるが、出会ったころより何も変わらないこの不変の世界がいつしか大切で、切なくて苦しいのに愛おしかったのだ。だから始め抱いた憎悪なんかより、この過酷な世界で笑うという異質なる不思議な安堵感と、臨場感が俺達を創り護っている。最初理解出来やしないとさえ思っていたメイルフォードの言う新しい"護る姿"を彼女から見出だしてしまったから。
だからこそ俺は、




どうしてか笑うことしか知らないメイルフォードに、新しい世界を教えてくれた恩として新しい感情を覚えた彼女の姿を見たくて、傍に仕えあなたの隣を譲りたくないという想いが知らない間に俺を模っていた。だから、この作戦が始まる前に顔を合わせたロッシュ中佐という男が少し気に食わない。あいつが隊長に興味を抱いたのは明らかで、勝手ながら敵対心に似た感情を俺は抱えている。あんたなんかより、俺の方が何年間も隊長を傍で、



「おーい"レン"、何ボケッとしてるのさ。早く皆と合流するよ、PSICOMに五月蝿く言われたくないでしょう」


「理解、俺だって面倒ごとは勘弁ですから」






だから、
戦う為に産まれたと自ら語ってくれた世界を知らない隊長のために、自由という理想を背に、俺はあなたを、
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いよいよ登場、メイルフォードさんがライトニング達と出会う『メイルフォード』となる理由の彼。もちろんオリジナルキャラクターです。彼とメイルフォードさんの関係はかなり重要で、もう主軸。これからもっと様々な軍人時代のお話書いていきます!

ちなみにタイトルのHeath[ヒース]はエリカという名の花の英名。
花言葉の意味は『博愛、柔軟、孤独、寂莫、不和』。語源は「荒野(独語)」 。

ライトニングさんの短編にあった名前の意味の設定も、かなり使っていきます。

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