小説 | ナノ
生まれる為荒野に咲くジニア


彼のように整った容姿を持ち、更に心が落とされてしまうような低音の声に告白にも似た言葉を甘く囁かれれば、虜になってしまわない女性はきっと少ないだろう。
しかし、メイルフォードはそういった感情に対して酷く疎かったのだ。
誰も教えてくれはしなかった温かさなど持たずにも、今まで生きてこれたのだから別になくともいい感情なのだと自然に学んでいた。



そうだ。
私は"誰にも教えられていない"し"笑うことしか知らないからこそ"そうして生きているだけなのだと。



ふと、気がついてしまった現実を認めた時不意に背中に在る印が疼き僅かに眉を顰めたが。
人が来る気配を感じてメイルフォードはやんわりと自分を押さえつけていたシドの腕を押し返せば、彼は案外素直に応じた。
先ほどはあんなに強引じみた言動だったのに、今は穏やかな表情さえ浮かべている彼の心の内がわからずにメイルフォードは珍しく困惑してたが、彼らの間に第三者の声が響く。


「准将ー、こんな時に女性口説いてどうするんだ」


「こういう時だからだ、お前も少しは学べリグディ大尉」


「其処まで准将の真似なんて勘弁だ。 で、返事は貰ったんすか」


「お生憎だけど、私は人の愛し方を知らないからねぇ。 別のべっぴんさんでも見つければいいさ」



シドの意識が僅かにリグディという男に逸れたのを狙って、メイルフォードはすぐに使い慣れた笑みを口元に湛える。
しかし先ほどより心の中に引っ掛かって仕方が無いことをひとつだけでも理解したくて、彼へと視線を戻す。おそらく今の私は、眼が笑えていない。



「シド・レインズ准将だったっけ? 二度目とは言ったけど、私は君を知らない」



そういえば彼は少しだけ、その双眸に驚愕の色を滲ませた。リグディは話の内容が理解出来ていない様で、もしかしたらシドは口説きを軽くかわされたことに驚いたのかと思いかけるが、そんな馬鹿みたいな事あるわけないと考え直す。何故なら、今自分達がいる場所の雰囲気は明らかな緊迫感に似た冷たさが在る。不必要に、踏み込んではならない領域。



「私は知っているのだが。かつてダイスリーの命により急遽結成されたというにも関わらず、我等騎兵隊やPSICOM特殊部隊より酷くかけ離れた能力を持つ異質な特攻部隊。表ざたにはならなかったが別名は『捨て駒』。それを率いていた女性メイルフォード・ベンメリアが企てたコクーンのファルシの破壊とダイスリー暗殺を目的とした通称『ヘル・ジニア事件』。君が軍の裏切り者となる瞬間と理由を」



まずい話の最中に来てしまったものだと、つくづく運のないような己を呪いたくなったリグディとは裏腹に、当の本人であるメイルフォードはシドの言葉を理解できていなかったようだった。まるで初めて聞く言葉を彼女の中だけで繰り返しているかのように、僅かに開いた唇が微かに震えていた。



「……確かに、私は隊を率いてダイスリーを殺そうとしたけれど…コクーンのファルシを破壊…?」


「違うかな?それとも、君がその武器を取る為の理由に囚われ忘れてしまっていたか」



静かに響くシドの声に、彼女は緩やかに顔を振る。
その瞳は自分の今感じている"真実の誤差"に戸惑いを隠しきれておらず、揺らいでいる。
―――…知らない。
そういえば両親の顔だって、故郷のことだって誰にも聞かれなかったから言わなかっただけで。人に対するとき笑えば相手が笑ってくれるという"そうすればいいのだ"という擦り込みにも似た己の感情。武器を持てばそれを使い戦えばいい。笑ってくれる人が笑うために前を守ればいい。同じことを繰り返せ。誰かが頭の中で謡っている。おまえは、そうしたいがためにいちど名を捨て私にその花束を預けたのだろうに、と。


思えば、何故私の背には。召喚獣は。




「こんな事は二度目は無くていいと思っていたかった、しかし現に君は此処にいる」




もう、君自身気がついているのではないかと。シドの柔らかな声が。




「反逆者は皆例外無く処刑―――重罪人である君は一度命を落としている」




聖府軍の命令により先に絶ってしまった友人の敵を討つ為に
しかし何故こうして息をして、聖府が真実を隠し"指名手配"という形だけで君を追っているのかが知りたくないかという言葉だけが、メイルフォードの真っ白になりかけた思考を優しく守っていた
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備考*
前作のシド夢の続きだったりします。
なんというか、ちょっと入り組み過ぎた…もしかしたらこの話を書いたことにより更に過去の話が増えたり夢主さんの設定が大幅に変わる予定。
そうじゃないと進まない気がしますし^q^
かなり特殊というか、好き勝手な設定ですみませ…
ちなみに短編タイトルやオリジナル設定な事件名の『ジニア』は花の名前。
(別れた友への想い)という花言葉の意味で捉えて頂ければ。

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