13-2部屋 | ナノ
そこからはじまる漣の




時空の扉――ゲートを通って、ライトニングの妹であるセラに出会うことはできた。

突如ネオ・ボーダムに現れた俺のことを信用してもらうにはまだ少し時間が必要であって、尚更ライトニングが本当にどこかで生きているとしても信憑性が無いために、一晩時間を作った方が良いだろうと。
明日の返答次第でセラの今後が決まる。
恐らく、彼女の答えはもう心の中で決まっているのかもしれない。
だけどそれは言わせる答えではなくて、彼女自身が言い出さなければならない答えだから俺は待つことにしたんだ。そうしたらオーパーツを探して、ゲートへ向かうだけ。明日訪れるだろう少し先の未来に、少しだけの緊張と未来を変える為の道筋を探せるという心弾む思い。
しかしそれはノエルの思考を埋めるもう一つの驚きに簡単にかき消されてしまうものだった。


ネオ・ボーダムに現れた魔物を殲滅し終えて、俺はノラ、というこの地を纏めているメンバーに寝床を提供してもらえる運びになった。
正直ありがたかった。ハンターとして生きてきたからには野宿など何ということもなかったが、やはり人として安心できる寝床が一番だから。
短い安息の時間だろう、それでも俺にとっては初めて知るばかりの物を見てはそれを覚えるのに大変だった。
どうしていいのかわからなくても、不安なんて表に出してはいられない。感嘆の声を上げても、動揺はできない。
我ながら歪な成長をしてしまったとも思う。だけど、あの世界でたった一人生きてきたのだから仕方ないじゃないか、と囁く俺も居る。
宛がわれた場所に案内してもらおうと歩を進めた時に、セラがふと振り返ったかと思えばその眼を瞬かせたかと思えば、次にはもう笑っていた。それは俺に向ける人当たりの良い笑みじゃなくて、心からの笑顔。


「メイルフォード! 帰ってたの!?おかえり!」


彼女が紡いだ名が俺の耳に届くと同時に、あの光景が蘇る。
混沌としたヴァルハラの地に降り注ぐ瓦礫の雨とその中で――
まさか、と。だけどただ名前が一緒なだけかもしれない。俺が見た女性はあの地で確かに。

ノエルは言い表しようのない焦燥と期待のままに、静かに身体を向けた。
視線の先にはノラメンバー達に囲まれて楽しそうに笑い会う、あの女性が居た。
潮風に靡くアッシュグレイの緩やかなカールを纏う髪も、それに色を添える新緑のバンダナも、ヴァルハラの地に痛烈な色を残した朱色の上着と相反して落ち着きのある黒いパンツも。そして、あの穏やかな漆黒の双眸の色でさえ何もかも一緒だった。
間違えるはずがない。間違えるわけもない。あのような、何もかもを許してしまっているかのような包容力のある、それでも何処か寂しげな微笑みを湛える人を忘れられるわけがなかった。

言いたいことは沢山あった、直ぐに駆け寄ってどうしてあんたが此処に居るんだって問い詰めたかった。
だけど楽しそうに笑い合う皆の輪を崩してしまうのを躊躇ってしまう。
人の繋がりがどれだけ嬉しいか知っているからこそ、尚更俺は言葉に詰まる。寂しさと苦しさだけが、俺の喉を喰らい尽くしそうで。
ノエルは静かに、それでも確かな力強さを持って自然と歩を進めていた。


近づくノエルの姿に最初に気がついたのはメイルフォードだった。
彼女が其方に視線を向けると、まだ積もる話をし足りないのだろうが今の輪の中心となってる人が気をそらしてしまったなら仕方がない。
一様に見つめればセラが手を叩いてからノエルの方を示す。


「メイルフォード、あのね、さっき話したでしょ? 彼がノエル。一緒に戦ってくれてレブロの事助けてくれたんだよ」


「成程。 通りでここいらじゃ見ない顔だと思ったよ、まずは礼を言わなきゃだね」


メイルフォードは約1年ぶりにネオ・ボーダムへ帰って来たばかりだという。この地を開拓する為に尽力したいと考え、今は殆どの機能を失ってしまったコクーン内部でまだ修理したり改造すれば使える機材などを探してはこの地に贈ってくれていたのだ、とユージュやマーキーの声が俺の思考に届いてるようで、本当は余り入ってこなかった。
俺を見つめる夜よりも穏やかな漆黒の双眸は、あの時見た色と全く変わらないから。口元に模られる笑みも、柔らかな声も。
静かに俺が右手を差し伸べて、笑って見せれば尚更あの光景と被ってしまって、なぜか指先が震えた気がした。


「ノエル・クライスだ。 よろしく」


だからか解らなかったけれど、彼女はその笑みを深くして俺の手を取った。
確かに存在するという暖かさにどうしてかノエルの胸が締め付けられる思いがした。本当に、此処に居る。
だったらあの時会ったあんたは?


「挨拶が遅れたね、"初めまして"。 私はメイルフォード・ベンメリアさ。適当に呼んでくれて構わないよ」


でも、なぜかあんたは"初めまして"と言った瞬間だけ悲しげな色を浮かべたのを俺は見てしまう。
その時だけ、それまで忘れてしまって――いいや、思い出そうとしなかった向こうのあんたから押し付けられた『小さな預かりもの』がポケットの中で震えたような気がした。




なあ あんたは何か知ってるんじゃないか  そうじゃなきゃ、どうしてそんな寂しそうな顔するんだ 

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