13-2部屋 | ナノ
◇プロローグ:ヴァルハラにてV


女神エトロとの邂逅を強く望んだ青年

ヴァルハラの地より見ていたライトニングに伝わる彼の名――ノエル・クライス
彼がこの混沌なる地に出でし時、それは始まり




ライトニングと名乗った女神に近しい雰囲気を纏う女性に助けられた彼は、肌を打つ風の猛々しさに眉を顰めた。
此処がヴァルハラの地。時間さえも意味を無くすという死と混沌の地。
彼女が従える召喚獣の背より望める景色には言葉を詰まらせてしまう何かが確かに在った。
それは容易に言葉に言い表しきれない、そんな息苦しさと例えようのない存在感。
彼が再びライトニングへと視線を向けようとした刹那、2人を追っていたバハムート・カオスの行く手を阻むかのように新たな召喚獣が舞う。
召喚獣は――正確に言えばその背に乗っているアッシュグレイの髪を持つ人間が、滑空の為に屈めていた身を起こす。
ノエルに背を向けている為に顔はわからなかったが、艶やかな朱色の服を纏う華奢な体格は一目で女性であると解る。
今はノエルを抱えているせいかライトニングでさえも正面から戦うことを選択しないというのにも関わらず、女性は背負っていたダブルセイバーを構え魔法の陣を組み立てていく。


「――!? おい、あんた何をッ…!」
「メイルフォード、よせ!」


俺とライトニングの声は同時に発せられていた。
だがどちらの声もバハムート・カオスの猛々しい咆哮に掻き消されていたかと思われたが、魔力の光に模られたそのメイルフォードと呼ばれた女性は視線のみで振り返った。
穏やかな優しさしかない双眸と口元には柔らかな微笑み。それは安心感よりも焦燥感を抱いてしまうような、危うげな希望。


「なあに、私にも守りたいものくらいあるんだ。 前を向きなさいっての」


メイルフォードが言葉を紡いだ刹那、バハムートは充填していたエネルギーを力へと変換しライトニングらへ向けて発した。
応戦すべくライトニングが同じく魔法を発動させようとする前に動いたのはメイルフォード。
召喚獣ヴァルファーレも女神の騎士とノエルを守るように保護魔法シェルを唱える。
無謀な試みだと知りながらも飛び出す女戦士の背へ思わず伸ばしかけたノエルの手も、無残にも彼らを守るバリアに阻まれる。
弾かれた手の向こうでバハムートの力とメイルフォードの唱えた魔法が互いにぶつかり合い、ヴァルハラの空に眩いまでの衝撃波が走った。


波動の余韻が静まる前にライトニングとノエルは召喚獣の背より降りる。
身を急かすような焦燥感のままに2人は空へと視線を上げようとしたが、彼らが降り立った地の直ぐ傍に召喚獣ヴァルファーレが墜落した。
轟音と同時に眩い光の粒子が辺りに浮かび、それはヴァルハラの空に交わり散る。召喚獣が存在を保ち続けるのが、限界だったのだ。
砂埃が消える前に其処に駆け寄れば2人の姿を視界に捉えるなり、先ほどと同じ笑みで迎えるメイルフォードの姿が在った。
だが露出している肌の部分は殆ど裂傷ばかりで、あの時一歩間違えていればこうして会う時もなかっただろう。一目でわかるほどの、愚かな選択の結果だった。


「あんた、馬鹿じゃないのか! 人ってのは簡単に死んでしまう!どうしてあんな…!」


「『もう何度も死んだ人間』が死に急いじゃ悪いかな」


「ッ訳が分からないこと…「ライト、ノエルに話があるんでしょう? さっさと済ませちゃったほうが良い」 おい!」


怪我をしているにも関わらず、出会ってから変わらない笑みを保ち続ける彼女はある意味異常な感覚の持ち主のようにも思わざるを得なかった。
人の命の尊さをこの若さでイヤと云うほど思い知り、沢山の望みと願いを背に生きていたノエルには尚更痛切な感性のすれ違い。
傷ついても、初対面のノエルに酷く怒鳴られても決して漆黒の双眸に宿る優しさだけは変わらなかった。
それは彼女に生まれた時から与えられた唯一の『不変』。
メイルフォードの視線を受けてライトニングは静かに頷いた。ノエルの肩を叩き、そして彼に御守り――モーグリを授け、こう託した。



私の妹のセラを導いてくれ、


ヴァルハラの地にたどり着いたおまえならできると



そして彼女はカイアスの召喚した天より飛来する力を止めるべく、立ち向かって行った。
ノエルはライトニングに託された己の新たな意味を噛み締めるように『お守り』を握り締めて、瓦礫の雨の中駆け出そうとした。
だがまだ此処に居る人が居ることを思い出し、身体を翻しかけた途端空いていた手を掴まれた。
それは紛れも無く今俺が探そうとしていた人物の手。怪我を負った身でありながらもその強さは変わらぬ手。


「あんた、メイルフォードって言ってたよな。 一緒に行こう、共にライトニングとセラを手助けするんだ!」


「心配いらない、それは向こうの『隊長』が手伝ってくれるさ。 私――俺はもう、無理だ」


「何言って…」


振り返った先にあったのは、安らかな漆黒の双眸ではなく。嘗て見た暮れゆく夕日のような艶やかな緋色の眼。
優しさは変わらない。しかし先ほどの声色と言葉使いからして、同じメイルフォードとは思えずにノエルは動揺を隠せずに眉を顰めた。
だが時は待ってくれないのだ。メイルフォードはノエルの手に小さい何かを握らせると、片手にダブルセイバーを携えたままゲートへ向かって彼を力の限り放った。
間に合うように、そしてライトニングとメイルフォードが望むように。ノエルへと託したのだ。


「――ッメイルフォード!」


ノエルがゲートを潜りヴァルハラより旅立つ寸前に垣間見たのは崩れゆく建物と、ヴァルハラの空。
彼へと思いを託したメイルフォードが静かに笑った後――膝から崩れる様だった





隊長 俺、あなたを通して見れた世界  嫌いじゃなかった

- 3 -


[*前] | [次#]



SiteTop///dreamtop
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -