13-2部屋 | ナノ
月明かりと群青の


ふと、目が覚めた。慣れない場所なせいもありただ単純に身体が緊張してしまっているせいもあるかもしれない。
だが一番の原因はノエル自身が解っていた。

ノラメンバーやセラ達が住居として使っている家でオーパーツやゲートが何なのか。
嘗てコクーンを救ったセラの姉であるライトニングは今はクリスタルの柱となっていると皆が信じて疑わない中で、ノエルが"ある地"で出会ったということ。
時空を超えた旅に出れば何時かライトニングにたどり着くであろう、そんな何処にも根拠のない話。
勿論皆がすんなり直ぐに受け入れてくれるわけがなかった。実際説明している俺でさえも、ちゃんとオーパーツが見つかるか、とか。ゲートの先がライトニングに繋がっているのか。
全てにおいて自分が言ってることが何処か不安なところがないと言い切れなかった。
記憶を頼りに踏み出した一歩がこれほど危ういものなのかと。
でも俺は俺の知らない世界を見て、一度混乱に陥ってしまったというこの地を居住区に仕立て、魔物が徘徊するという地でも生きていこうとするこの地の皆を見ていて思った。
ノエルの居た世界はとても寂しかった。だからこそ、変えたいと。



少し海が見たい。そう思っていた瞬間には既に足は外へと向かっていた。
死にゆく世界の海は海と呼べるようなものではなかった。
黒く淀んだ空の色しか映せない其れは人を死に至らしめるものでしかなくて、其れを見たのもごく僅かの時だけだった気がする。だけど今俺の目の前に広がるのは決してそのような淀んだ色など一切無い、月明かりを反射したコクーンとそれを支えるクリスタルの柱が漂わせる清純な煌きの青が映える紺碧の海。
漣の音が心地よかった。肌を打つ潮風でさえ清々しい。
こんな時代にもし俺達が生まれていたなら、と考えたがそれは直ぐにノエルの思考ではこう変わる。

こういう世界にしたい、俺達が生きている未来はこうあるべきだったんだと。

ゆっくりと瞼を閉じながら思い切り息を吸い込んで背伸びをする。
鬱そうとした気持ちは今持つべきじゃないんだと再び海へと視線を滑らせて、そこで初めて気がついた。



月明かりと群青の夜に伸びる桟橋の先。
支える為の杭のような柱に腰をかけ、静かにたゆたう海の流れを眺めているメイルフォードの姿があった。
静寂の中で一切の物音も立てずに海を眺める様はまるで景色の一部と化しているかのように、ただ豊かなアッシュグレイの髪が風に揺れる様だけがはっきりと見えて。
どうせなら聞きたいこともあった。何よりセラを始めとしたノラメンバー達にライトニングの話をした際に、どうしてかメイルフォードの話は出来なかった。
自分の中ではっきりしていない事を言い触らして皆を混乱させるべきではないと思った故の行動。
だからこそ、明日はオーパーツを探すのに専念したいと考えたから。自分の中でも何かのけじめをつけようとしているのかもしれなかった。
砂浜を踏みしめ、桟橋に一歩差し掛かった時にふいに静かな波音だけが支配していたこの場に、穏やかな声が通る。


「眠れないなら話し相手になってあげるよ。 寧ろ君はそれを望んでる、違うかな?」


振り返った彼女は笑っていた。
はじめからノエルが此処に来ることを解っていたかのように、さして驚いた様子もなく至極穏やかな声でそう呟いたのだ。
少しくらい驚いたって良いだろうと僅かに肩透かしをくらったような気分を味わったが、ノエルは肩を竦めてメイルフォードの隣に立った。此処なら海をよく見渡せる。


「正解。 ……あんたって、不思議だよな」

「会って間もない人にそう言われるのは聊か心外だねぇ」

「――だけど、俺はあんたに会うのはこれで二回目だ。 一度、あんたと会って『隊長』って人宛に託されたモノがある。 …本当に、あんたはあの時のメイルフォードじゃないのか?どうしてさっき俺が名乗った時、寂しそうな顔したんだ?」


警戒と困惑。それが歪に混じった声色。
疑念に彩られたノエルの空にも負けない艶やかな青の双眸に見つめられてもメイルフォードはその笑みを決して崩さなかった。

「……知りたい?」

「あんたは、聞けば全部話してくれるのか?」

「君次第さ。知りたいというなら止めはしない――だけど、君達が渡った時空の先に居る私の未来を変えないというのを前提としてね」



そう呟いたメイルフォードは少しだけ悲しげな顔をしていた気がして、

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