すうぃーとすうぃーと | ナノ
慰めいちご


「える…じゃなくて竜崎。」


最上階スウィートルームの
展望窓から恋人と東京の夜景を見下ろす。


「…はい。何ですか」


「もうすぐだね。」


「…はい。そうですね。」


「…緊張してる?」


「いえ…ただ、死ぬのは怖いです。」


最高の夜景を前に何て会話なんだろう。

死ぬのが怖い、なんて
そんな真顔で言わないでよ…
ねぇ、エル…


「…真幸?」


あぁまただ。またあの感情だ。
抱きしめた背中はいつもより低体温だった。


「…命なんて、懸けなくていいんだよ…」


泣きたいのを、堪える。
本当に泣きたいのは、私じゃない。


「…そうですね。
大丈夫、こんな手の掛かる恋人を置いて
逝けませんし逝きません。
…私が命を懸けるのは、貴女だけです。」


「…それも駄目。
エルが死んだら私も死ぬよ。」


「…そうですね。大丈夫死にません。
貴女がいるのですから。約束です」


そうして落とされたキス。
それとほぼ同時にインターフォンが鳴る。


「来られましたね」


「待ってエル。」


「はい。」


「…私ね、
エルがLとして人前に出ることが嬉しいの。」


「…そうですか。」


「エルが寂しい顔してる気がして、
胸がきゅーってなる時があるの…」


「…そうですか。」



…せっかく長年隠してきた思いを
このタイミングで明かしたのに
いつもの無表情。

緊張してるのかな、
こんなタイミングなんだもん仕方ない、
いや、このタイミングでよかったんだ。
これで彼の優しい心を傷つけることなんてなかったんだから。

ドアに向かう為長い廊下を歩く


「…やっと謎が解けました。」


「えっ?」


見ると、エルが笑ってる。


「いえ、ずっと気になっていたんです。
貴女が無言で抱きついてくる時、
いつも何を考えているのか。」


ちゃんと、聞いててくれたんだね。
私の思い、受け取ってくれてたんだね。
胸を締め付けられる痛みとは
また違った想いが胸の奥から込み上げてくる。


「真幸。」


「はっ、はい」


突然名前を呼ばれてビクッとしてしまう。
この名前で呼ばれること、当分はないんだろうな。


「…ありがとうございます。
けど今私は幸せです。
Lとして人前に出ることはなくても、
貴女が私の本当の名を呼んで、
求めてくれるのですから。」


そう言ってとても綺麗に笑う、エル。
エルのお陰で心の靄が晴れたかもしれない。
もうこんな、胸が締め付けられる気持ちになることもないだろう。
何故だか私が泣きそうになる。
けど悲しいんじゃない、
私がエルのことを求めることが、
エルの支えになってたなんて嬉しくて、
嬉し泣きしそうになってるんだわ。


「っ…何で泣くんですか?
早く拭ってください。もう入れますよ。」


「だ、だって、
あ、ちょっと待って、」



軽く咳払いをして、扉に手を掛けた。



『…お待ちしておりました、
お入りください。』












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