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ほんとは、こういうのを理由にして先輩のカテキョ断ればいいんだと思う。でも、たぶん先輩はそういうの聞いてくれないんだろうなって、残念ながらもう十二分に理解してしまった。それに、先輩、勉強してるときはまじめなんだ。そういうひとを一方的には突き放せない。
課題を理由に今日一日カテキョを休むのも、それは根本的な解決にはならない。課題はこれからだって日々出されるものだし、軍曹の出す課題はいつだって鬼畜なんだ。だから、俺は両立しなきゃいけない。
「俺も今日は先輩が問題といてる間、勉強します」
ちゃぶ台を挟んだ状態で先輩と対峙するように座って課題の文庫本を取り出しすと、先輩はそれを見て「ん? あぁ、わかった」と返事をした。特にいぶかしむ様子もなく、いつもどおり。
勉強するって言っても、先輩をないがしろにするわけじゃない。いつもどおりにちゃんと例題解いて、解法の手順を説明をして、ノルマを示す。先輩はその都度相槌を打ったり質問をはさんだりして、一時間程度は先輩のために費やした。
いろいろ先輩に言いたいことはあったけど、「あんたのせいで課題できなくてペナルティ食らった」とはどうしても言えなかった。「文系教科が苦手」って思われることは問題ないんだけど、「カテキョのせいで勉強に支障が出てる」なんて思われるのは、どうしても悔しい。そういう意味で同情や遠慮をされるのは我慢できない。俺だって、曲がりなりにも「男の子」なのだ。プライドってもんがある。
……しかし、俺はページをめくって、すぐにそのプライドをへし折りたい衝動に駆られた。
ひしめくアルファベットの洪水。教科書なんて比にもならない文章量。
なんとかわかるところだけでも、と辞書を引くけれど、だめだ。わからないもんは、わからない。
「どーしよ」
軍曹の信用をこれ以上裏切りたくない。
信用ってのは日々の積み重ねで、築くのにはそりゃもう時間がかかる。だけど、崩れるのは本当にたやすい。おれはすでに、それを一度崩しかけてる。これで「もう一回」なんてなったら土台からぐちゃぐちゃになるのは、目に見えてる。
「うー」
困ってしまってうなっていると、数学をといていたはずの先輩が、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「貸してみ」
「は?」
顔を上げると、先輩は優しく笑った。
何だ。何なんだ先輩。先輩はハテナを浮かべる俺を無視して、俺の持ってた文庫本を取り上げ――
……なんと、滔々と英語を読み上げはじめた。
舌、超回ってる。途切れない。しかも気負う風でもなく、自慢する風でもない。
俺は発音のよしあしなんてよくわからないけど、でもこの人のは、……どう聞いてもほとんどネイティブに近いんじゃ……。
一ページ丸ごと読み終えた先輩は、視線を本から俺に移す。そして「な?」と同意を求められたけれど、俺は言葉を失って何もいえない。
いや、だって、さ。この人不良だぞ? さらっと平然と、なんでそんな発音良いんだ。
「俺、文系得意だからな」
そういうレベルじゃないだろう、それ。
俺がぽかんと口を半開きにして固まってると、先輩は笑った。
「どーする? 和訳聞きてーの?」
「へ」
ちょっと脳内が混乱してる。いろいろつっこみたい。
だって、なんか、この状況、
先輩が超優等生みたいじゃないか??
「先輩……不良、ですよね?」
「おう」
俺、不良の定義がわからなくなってきた。
課題を理由に今日一日カテキョを休むのも、それは根本的な解決にはならない。課題はこれからだって日々出されるものだし、軍曹の出す課題はいつだって鬼畜なんだ。だから、俺は両立しなきゃいけない。
「俺も今日は先輩が問題といてる間、勉強します」
ちゃぶ台を挟んだ状態で先輩と対峙するように座って課題の文庫本を取り出しすと、先輩はそれを見て「ん? あぁ、わかった」と返事をした。特にいぶかしむ様子もなく、いつもどおり。
勉強するって言っても、先輩をないがしろにするわけじゃない。いつもどおりにちゃんと例題解いて、解法の手順を説明をして、ノルマを示す。先輩はその都度相槌を打ったり質問をはさんだりして、一時間程度は先輩のために費やした。
いろいろ先輩に言いたいことはあったけど、「あんたのせいで課題できなくてペナルティ食らった」とはどうしても言えなかった。「文系教科が苦手」って思われることは問題ないんだけど、「カテキョのせいで勉強に支障が出てる」なんて思われるのは、どうしても悔しい。そういう意味で同情や遠慮をされるのは我慢できない。俺だって、曲がりなりにも「男の子」なのだ。プライドってもんがある。
……しかし、俺はページをめくって、すぐにそのプライドをへし折りたい衝動に駆られた。
ひしめくアルファベットの洪水。教科書なんて比にもならない文章量。
なんとかわかるところだけでも、と辞書を引くけれど、だめだ。わからないもんは、わからない。
「どーしよ」
軍曹の信用をこれ以上裏切りたくない。
信用ってのは日々の積み重ねで、築くのにはそりゃもう時間がかかる。だけど、崩れるのは本当にたやすい。おれはすでに、それを一度崩しかけてる。これで「もう一回」なんてなったら土台からぐちゃぐちゃになるのは、目に見えてる。
「うー」
困ってしまってうなっていると、数学をといていたはずの先輩が、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「貸してみ」
「は?」
顔を上げると、先輩は優しく笑った。
何だ。何なんだ先輩。先輩はハテナを浮かべる俺を無視して、俺の持ってた文庫本を取り上げ――
……なんと、滔々と英語を読み上げはじめた。
舌、超回ってる。途切れない。しかも気負う風でもなく、自慢する風でもない。
俺は発音のよしあしなんてよくわからないけど、でもこの人のは、……どう聞いてもほとんどネイティブに近いんじゃ……。
一ページ丸ごと読み終えた先輩は、視線を本から俺に移す。そして「な?」と同意を求められたけれど、俺は言葉を失って何もいえない。
いや、だって、さ。この人不良だぞ? さらっと平然と、なんでそんな発音良いんだ。
「俺、文系得意だからな」
そういうレベルじゃないだろう、それ。
俺がぽかんと口を半開きにして固まってると、先輩は笑った。
「どーする? 和訳聞きてーの?」
「へ」
ちょっと脳内が混乱してる。いろいろつっこみたい。
だって、なんか、この状況、
先輩が超優等生みたいじゃないか??
「先輩……不良、ですよね?」
「おう」
俺、不良の定義がわからなくなってきた。