19

 はむ、と鎖骨ををあまがみされて、歯の間から舌が這いずる。その熱に驚いて、俺のからだが「ぅぎゃ」と跳ねた。その拍子に、叩いていた手が止まってしまう。くすぐったくて首を竦めたいのに、先輩の頭が邪魔だ。
 先輩は楽しそうに鎖骨から首に沿って口付けを上らせてくる。ちゅ、ちゅ、とわざとらしく音を立てて。
「も、やめ、ろっ」
 こんなことさせないって朝誓ったばっかりなのに。しかもちょっと気持ちよくなってるし俺、ああ死にたい。
 やがてまなじりまで上ってきた先輩の唇が俺のまつげに触れる。かと思えば、匂いをかぐように鼻を髪に押し付けて、耳の裏の皮が薄い場所に唇を寄せながら笑う。
「おまえ、俺と一緒のにおい」
「ひ、」
 吐息がかかって、気持ち悪いような良い様な、なんともいえないくすぐったさで、肌が粟立ってしまう。それにしても……匂いかぐとか、この人、どうしようもない変態だ。
 しかもにおいかぐだけじゃない。なんと耳のうらなめられた。あほだこのひと……! 耳に直接届く粘ついた音がエロ過ぎる。
「うぁっ」
「そっか、俺んちでシャワー浴びて俺のベッドで寝てたもんなー……俺が作った飯食べてるし、今履いてんの俺の下着だし……。うん、なんか俺のモンって感じで、すげーいいわ」
 一人納得した先輩に笑顔のまんま抱きしめられて、こんどはちゅ、と上からつむじにキスされる。そして背中に回っていた先輩の手が体に沿うように下りてきて、さわさわとおれの尻を撫でる。
「ぎゃ、へ、へんたいっ」
 身をよじって逃れようとする俺に、先輩は「そだな」と言うなり押し付けるようにキス。べろちゅーじゃなくて、楽しそうに唇を唇で食むようなキス。手は止まらないどころか、俺のジッパーを下げ始めているし、おれはもうどこから身を守ればいいのかわからない。

 ……どれだ、優先順位はどれだ。俺は唇とちんこどっちから守るべきだ。

 いや、ほんとはどっちもなんだろうけど、俺のあたまはいかれてて、もうまともに働きそうもないらしい。唇は諦めよう。と判断。
 キスされたまま、なんとか先輩の手を股間から退かそうと上に手を重ねたが、そんなの何の障害にもならないとばかりに、先輩の指はするりと入り込んでくる。
 非難の声を上げようと唇を割れば、見計らうように口付けが深くなった。
「ーっ」
 背中を叩いてもまるで意味がない。先輩の右手はおれの社会の窓を掻き分けて進入しようとするし、左手はキスを盛り上げるように頬やら瞼やら首すじやら……色々やさしく撫でてくる。わき腹撫でられて、服の上からなのにびくっと反応すれば、先輩はこれまたうれしそうにする。
「かわいーな、おまえ」
 そんなこと言いながら時々思い出すように瞼にキスをして、俺が目を開ける前にまた唇を塞ぐ。そのくりかえし。
 べろちゅーなんてされたら絶対気持ち悪いと思っていたんだが、この変態はキスもそりゃもううまいのだ。無理やり舌を絡めることもなく、ノックするみたいに俺の唇を唇で湿らせて、割らせて、誘い出すみたいに舌で刺激してくる。そのあいだも、いろんなとこ撫でられる。
「……ん、ん……、んぅ」

――やばい、ひじょうにやばい。その左手とそのキスはやばい。なんか気持ちいいって言うか心地いい。ふわふわする。服着たまんまなのに、やらしいぞ、この状態。耳いじりながらキスするなんて反則だ。くすぐったい。きもちいい。

 今日の朝に気づいたんだが、俺はけっこう……いや、かなり、気持ちいいことに弱い。
 そんな風に優しく撫でられると、昨日の覚えたての熱がぶわっとよみがえってきて、体が震えてしまう。体だけじゃなく、いろいろと。
 あああ、だめだ、だめだ。
 とうとう俺の息子にたどり着いた先輩の手。気づかないでくれと願うも、きっと意味がない。

 唇が湿った音を立てて離れ、至極ご満悦な様子の先輩が、俺を見る。正確には、俺の息子を。

 いい、わかってる。わかってるからそんな意地の悪い顔をしないでくれ。

「たってるな」

 ああもう、そういうこと、言うなよ! 

 恥ずかしくて睨みつけると、先輩はうれしそうに笑った。そして、軽いキスを何度も何度も顔中に寄せてくる。何で睨まれてうれしがるんだこの人。マゾか、マゾなのか。
 俺の肌をキスで食みながら、先輩の声が楽しさに弾む。
「ここでスリル感じながら手早くすんのと、そこの図書準備室で腰すえてねっとりするの、おまえどっちがいい?」
 何だその選択肢!
「ここでがっつりってのも、ありだけど」
 ない、ないないない! それはない! 人来る!
「じゅ、準備室!」
 おもわず叫んだが、すぐに後悔した。
「ん。ねっとりな」
 先輩はいい笑顔だった。

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