11

「あ、あ、」
 水音とともに俺の吐息が漏れ、合わせる様に体がぴくぴくと震える。その音の出所は、信じたくないが俺の下腹部からだ。先輩のキスやら愛撫やらにしっかりと反応してしまったそいつは、今まさに先輩の手の中にいる。「暴れたら握りつぶしちまうかも」なんて末恐ろしい脅しのせいで、俺はなされるがまま。
 そもそも、「こんな奴蹴っ飛ばしてやりたい」なんて気持ちも、いつのまにやらもうどっかに吹き飛んでしまったのだ。いまはただ、この熱をどうにかしたくてたまらない。
「ん、ぁっ……あ」
 与えられる刺激は、自分でするのとは全然違った。気持ちいいのと同時にもどかしさもごちゃ混ぜにおそってくる。
「いいか?」
 楽しそうな声でそんなこと聞かないでほしい。いえるわけないだろう。もうすでに1回イってしまっているんだから、察してくれ。
 先輩は左手で俺の両手首を頭上で抑え、右手で俺のものを扱いている。その間も楽しそうに俺の耳やら首やら舐めるもんだから、そのたびに俺は声が上ずる。お互いの唾液で体中べたついているから気持ち悪いはずなのに、それすらわからない。
「あ、うう、も、いく」 右手の動きが早くなり、また射精感がこみ上げてくる。

 いやだ、出したくない、出したい。もっと。やめろ。気持ちいい。怖い。

 正反対の思いがぐるぐると駆け巡る。
 そしてもうだめだとそう思ったとき、見計らったように先輩の手の動きが止まってしまった。
「あ、」
 反射的に、求める様に身をよじってしまい、先輩がにやりと笑うので羞恥に顔が熱くなる。
 こんなの、俺の体じゃない。
「もっと気持ちいこと、するか」
 俺がもう暴れないと知って、先輩は俺の手首を開放して自分も服を脱ぎ始めた。
 先輩の体は男もうらやむようなたくましさで、その中心のものは俺のより幾分か大きく、硬度をもって上を向いていた。
 まさか、挿れるつもりなのだろうか。
 俺の視線に先輩は笑う。
「おびえた顔すんな。素股にしといてやるから」
「す、また?」
「そ。後ろ向け」
 俺が戸惑っていると、先輩は俺の腰を抱えてくるりと反転させた。そして四つんばいになるように尻を引き上げる。
「ローション、塗るぞ」
 後ろから、股間に手が差し込まれた。ぬるぬるとした液を硬くなった性器やその下の袋にに十分撫で付けられる。それだけでも十分に気持ちがいいのに、先輩は俺のモノに自分のペニスを沿わせ押し付ける様にして押し込んできた。
「ん……ぁっ」
 先輩の熱が、俺の睾丸と陰茎の裏を後ろからこすりあげる。ずりゅ、とひっかりあい、思わず鼻にかかるような声が出てしまう。一瞬で肌が粟立ち、何かを期待するようにひくひくと腹筋が震えた。
「ん、やべ、……きもち。足、閉じてろよ」
 両側からぐっと押さえつけられ、俺の脚が先輩のモノをきつく挟み込む。ゆっくりとした動きはやがて激しくなり、体がぶつかる音も、性器がこすれる粘着質な音も、すべてがいやらしく響く。太腿で挟んでいるだけで、本当にいれられたわけじゃない。なのに、入っているような気になってしまって、後孔にも力がこもる。
「ああっ、やばっ、いっ、……んんっ、うぁっ」
 抑えようと努めていた声が、あっけなく唇からこぼれてしまう。隣に聞こえるとか、そんな心配も霧散してしまう。脊椎から脳天へ、快感がしびれとなって走りぬける。
 手でされるのとはまったく違う感覚に、抑えがきかない。快感を逃すまいと、自らの腰がゆれてしまうのがわかる。
 恥ずかしくてたまらないのに、とめられない。
「乳首立ってる。やらし」
「ひ、ぅあっ」
 背後から伸びてきた指が、胸の突起をなぶる。驚きとともに嬌声がもれ、そんなところに感じてしまう自分を信じられない。
「かわいーなあ」
 ちゅ、と背中にキスされて、また声が跳ねる。触られたところ全てが性感帯にでもなったみたいに敏感になっている。
「城田、顔見せて」
 肩を掴まれて後ろに引かれる。体をねじると、先輩と眼が合った。その上気した頬も、薄く開いた唇も、男なのにとんでもなく色気がある。こんな男を、俺は知らない。この人の眼には、こんなみすぼらしい俺はどう映るんだろうか。背けてしまいたいのに、先輩はソレを許さない。
「あ、もう……いい、イくっ。見る、なっ」
「その眼、すげーえろい。……俺も、イきそ……あぁ、あ」
 ストロークが、どんどん速くなる。はぁはぁと上ずる息も、絡み合うようにこすれる性器も、熱くてたまらない。

 果てた瞬間、上がったのはどちらの声だっただろう。

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