10
視界いっぱいの、先輩の顔。伏せられたまぶたの、睫毛の一本一本まで見える。近づいて、触れて、深くなる。
「んぅ」
突然すぎて、悪寒も不快も追いつかない。ただただ、驚きばかりで。
「目、とじろよ。お前に見られると止まんなくなる」
そんなこと、言われたって。と言い返そうとしたら、視界を手のひらでふさがれた。
「ん、……っ、ふ」
唇が離れるときに漏れる空気。
混ざり合う唾液のねばり。
絡められた舌のざらつき。
耳たぶや首筋を撫でる手の熱。
全ての感覚が研ぎ澄まされて、脳に響く。
ぞわり、と肌が粟立つ。
なんだ、なんだこれ。
「せん、ぱ……ぅ」
唇が離れた瞬間になんとか声を上げようとするけれど、またふさがれる。何も見えないせいで、次に何が起こるか予想もできない。ただ翻弄されるばかりだ。
「何だ」
なんて聞いておきながら聞き入れる気はゼロで、暴れようとするとしっかりと押さえつけられた。両腕の手首は頭上で先輩の大きな手に押さえられていて、腰から下はのしかかられると体格差のせいでもうびくともしない。
「いや、だ!」
隣にこんな痴態を知られるのはたまらなく恥ずかしくて、抗議の声も小さくなる。そんな俺の様子に、先輩の声は楽しそうだ。
「だから言ったろ。睨むなって。そそられるって」
まぶたをふさいでいた手が持ち上げられて、視界が取り戻される。見上げた先にいた先輩の眼はぎらぎらとしていた。糸をひいた唾液をぺろりとなめて、俺の首筋に顔を埋める。ざらついた舌が、耳まで這い上がってくる。
「ひっ」
得体の知れない感覚だった。こんなの、限りなく悪寒のはずだ。なのに、じれったさに焦がれ、もっと欲しくなる。なんだ、おかしいだろ。
「やっぱりお前の目、そそるな」
「へんたいか、あんた……ぁ、んくっ」
スウェットのすそからそろりと手がもぐりこんでくる。くすぐったいようなもどかしいような感覚に身をよじる。裏返った声なんか出したくなくて唇をかみ締めると、くぐもった声が漏れた。
そんな俺の悪態に、先輩は舌を這わせながら笑う。喋るたびに首筋に吐息がかかって気持ち悪い。……これは気持ち悪いはずなんだとそう言い聞かせる。
「俺なんか見て、何が楽しいんだ」
綺麗でもない、可愛くも無い、目つきの悪い男だ。
「その眼、好きなんだよ。まっすぐな視線が動揺してゆれると、すげえやらしい」
ぺろりとまぶたを舐められた。
やらしいって言うな。人を変態みたいに。
「勉強の礼だ。気持ちよくしてやるから」
そんなの、いらない。そう叫ぼうとした唇はふさがれてしまう。
うしろ大事にしろよ。そんな鈴木の忠告が脳裏をよぎった。
「んぅ」
突然すぎて、悪寒も不快も追いつかない。ただただ、驚きばかりで。
「目、とじろよ。お前に見られると止まんなくなる」
そんなこと、言われたって。と言い返そうとしたら、視界を手のひらでふさがれた。
「ん、……っ、ふ」
唇が離れるときに漏れる空気。
混ざり合う唾液のねばり。
絡められた舌のざらつき。
耳たぶや首筋を撫でる手の熱。
全ての感覚が研ぎ澄まされて、脳に響く。
ぞわり、と肌が粟立つ。
なんだ、なんだこれ。
「せん、ぱ……ぅ」
唇が離れた瞬間になんとか声を上げようとするけれど、またふさがれる。何も見えないせいで、次に何が起こるか予想もできない。ただ翻弄されるばかりだ。
「何だ」
なんて聞いておきながら聞き入れる気はゼロで、暴れようとするとしっかりと押さえつけられた。両腕の手首は頭上で先輩の大きな手に押さえられていて、腰から下はのしかかられると体格差のせいでもうびくともしない。
「いや、だ!」
隣にこんな痴態を知られるのはたまらなく恥ずかしくて、抗議の声も小さくなる。そんな俺の様子に、先輩の声は楽しそうだ。
「だから言ったろ。睨むなって。そそられるって」
まぶたをふさいでいた手が持ち上げられて、視界が取り戻される。見上げた先にいた先輩の眼はぎらぎらとしていた。糸をひいた唾液をぺろりとなめて、俺の首筋に顔を埋める。ざらついた舌が、耳まで這い上がってくる。
「ひっ」
得体の知れない感覚だった。こんなの、限りなく悪寒のはずだ。なのに、じれったさに焦がれ、もっと欲しくなる。なんだ、おかしいだろ。
「やっぱりお前の目、そそるな」
「へんたいか、あんた……ぁ、んくっ」
スウェットのすそからそろりと手がもぐりこんでくる。くすぐったいようなもどかしいような感覚に身をよじる。裏返った声なんか出したくなくて唇をかみ締めると、くぐもった声が漏れた。
そんな俺の悪態に、先輩は舌を這わせながら笑う。喋るたびに首筋に吐息がかかって気持ち悪い。……これは気持ち悪いはずなんだとそう言い聞かせる。
「俺なんか見て、何が楽しいんだ」
綺麗でもない、可愛くも無い、目つきの悪い男だ。
「その眼、好きなんだよ。まっすぐな視線が動揺してゆれると、すげえやらしい」
ぺろりとまぶたを舐められた。
やらしいって言うな。人を変態みたいに。
「勉強の礼だ。気持ちよくしてやるから」
そんなの、いらない。そう叫ぼうとした唇はふさがれてしまう。
うしろ大事にしろよ。そんな鈴木の忠告が脳裏をよぎった。