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 愛されるのって悪くねえなぁ、というのがまず思ったことだ。熱い手で触れられて、撫でられて、くすぐられて、言葉にしなくても「愛してる」ってのがにじみ出てるもんだから、うれしいやら恥ずかしいやら。
 素直に気持ちいいって伝えれば喜んでくれるし、どんどん高められて、そりゃもう「ここが天国か」ってなもんで。
「かわいい」なんていわれるのも最初は恥ずかしいし嫌だったんだが、これがまた不思議と魔力のある言葉なのだ。そう言われるたびに「好きだ」といわれるみたいな甘さが俺を縛った。
 結果として言えばあいつの性器を後ろで受け止めることはできなかったんだが(いきなり入るわけが無いと怒られた)その分、前も後ろもじっくりと十二分にいじられて、俺はこらえ性も無くすすり泣くように喘いでしまった。未知の感覚が怖くて、でも気持ちよくて、甘いような切ないような気持ちがぜんぶごちゃまぜになって、すがるようにキスをねだってしがみついた。片瀬しか頼れるものが無くて、抱きつくとほっとして、キスされると胸が苦しくなって、俺が女の子としてたときも相手の女の子はああいう気持ちなんだろうか。……不思議な感動をおぼえる。
 朝になって明るくなると体にたくさんのキスマークがあって、俺は「俺の方がこいつのこと好きだ」と思っていたが、思った以上にこいつも俺のこと好きみたいで、なんだか照れる。
 そのせいか、横で寝てる片瀬を見ると、なんかよくわからない気持ちが湧いてしまう。今までの『好き』に、もうちょっと恥ずかしいような噛み付きたくなるような、そんなむずがゆさが混ざる。

 これが、そうなんだろうか。

 今まで恥ずかしげも無く伝えられた「好き」が、ちょっと恥ずかしくていいにくい言葉になってる。この感情が、こいつの言う『好き』なんだろうか。

「……好きだぞー」

 ぷにぷにと頬をつつきながら、言ってみた。

 すると、とたんに口の中が甘くなる。

 ……やばい。俺超恥ずかしい。なんだこれ。高校生みたいだ。

「うおぉぉ」

 我ながらその「恥ずかしい奴」加減に身もだえしてると、寝ていたはずの片瀬のまぶたがぴくぴくと動く。
「かた、せ?」
 おいおい、まさか。

 仰向けで目を閉じたまま、呆れたように、ため息。そしてぱちっとあけて、俺を見る。

「光也、お前ほんと心臓に悪い」
 伸ばされる腕。
「うわ!」
 抱きこまれて、片瀬は俺の髪に顔をうずめる。
 どきりと胸が鳴る。
 何これ、俺は乙女か。

 あれか? 抱かれて、本当に俺目覚めちゃったのか?
 俺そんな単純?
 今口説かれたら、ころっといっちゃいそう。

 片瀬、くどけ、俺を口説いとけ。今がチャンスだ。

 片瀬の胸の中でどきどきしていると、こいつはとんでもないことを言う。

「……ありがとう、もう十分だから。これで諦めるよ」

 俺の雷がおちたのは言うまでも無い。

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